現在、島村楽器は全国39都道府県にて約180店の店舗・音楽教室を運営しています。ネット販売を強化している過去5年間でも約20店舗を出店してきました。世界の楽器小売業の中で売上規模は7番目ですが、店舗数は2番目です。今後も店舗の出店は継続しますし、古くなってきた店舗のリニューアルや移転も積極的に行っていきます。
ネット販売が今後も伸び続けることが明白な中で、店舗出店を続けることを疑問視する方もいるかもしれません。私は、リアル店舗が強いことがネット販売にもプラスに働くと考え、リアルとネットの双方を強化してきました。ネットだけで情報収集と買い物を完結させる方や、その反対にネットを利用しない方も一定数いらっしゃると思いますが、あくまで少数派です。大多数の人は、ネットとリアルを無意識のうちに行き来しながら情報収集も買い物もしています。そうであれば、どちらも強化しないと、お客様からの評価を高め続けることはできません。
ネット販売の楽器店は品揃えも豊富で、わざわざ店舗に行かなくても買えるので便利ですが、購入したギターの演奏が上達したくてもレッスンを受けることはできません。また、弦が切れてしまったりギターの調子が悪い時にネット上で弦交換やリペア対応をすることは不可能です。
当社の場合、どの店舗でもオンラインストアで購入された商品でも、全国47都道府県のうち出店している39都道府県の店舗でお客様対応をすることができます。また、初心者向けのビギナーズクラブを受講して頂いたり、音楽教室に通って頂いたり、弦交換含めたリペアの受付も店舗で承っています。上達されたらライブイベントに参加されたり、気になっているアーティストのセミナーに参加することもできます。日本各地に実店舗を構えているからこそ、他店舗の在庫をお客様の最寄りの店舗に取り寄せて試奏していただく、といったサービスも可能になります。お客様の楽器生活に関する多くのことを自社で一貫してサポートできることが、当社が世界の他の楽器店やネット販売専業の会社と比較した強みだと思っています。そして、まだ足りないサービスを追加していくために、「楽器プレイヤーのトータルサポート」を当社の事業領域として再定義して、その強化に力を入れています。音楽教室の生徒様向けの楽器レンタル、楽器店として初となる電子ピアノなどへの延長保証サービスの提供は、お客様からもご好評を頂いています。
こうした取り組みを推進する上で、店舗の販売スタッフ一人ひとりが担う役割は、これからますます重要になっていきます。インターネットでは、あるテーマに関する情報を集約し、分かりやすい形で編集したキュレーションサイトが人気を集めています。対象への深い知識を持って情報収集を行い、効果的な展示を行う美術館や博物館の学芸員(“curator”)を念頭に置いた呼称でしょう。楽器のスペックを知りたければ、インターネットで詳細な情報が得られる時代だからこそ、個々の商品の違いを理解し、それをお客様にとって分かりやすい言葉で説明することができる、いわばキュレーターのようなスタッフの存在がかけがえのないものになると考えています。店頭にてお客様の様々な相談を受け、楽器のある生活への提案経験を積んできた販売スタッフは、リアル店舗だけでなくネットでも支持を得ることができます。実際に、店舗毎のホームページの記事やYoutubeの動画配信での分かりやすい説明が支持を得て、初めて来店されたお客様から接客の指名を受けたり、電話でご注文を頂くスタッフもいます。
例年多くの学生の方に就職先として当社を志望していただいています。是非一緒に働きたいと思う方を選ぶポイントは3つあります。
1つ目は、楽器と音楽が好きであること。当たり前のように思われるかも知れませんが、これが何より大切だと思っています。当社は楽器を専門に販売し、音楽教室を運営する企業ですから、仕事は常に楽器・音楽とともにあります。演奏が上手な必要は全くありませんが、楽器の演奏経験があり楽器と音楽を楽しむ心を持っていないと、やりがいを持って毎日店頭に立つことはできません。
2つ目は、接客が好きであること。接客には必ず正しい「答え」というものはありません。お客様は一人ひとり、異なるニーズを持って来店されますから、同じ接客も二度とありえません。時にはお客様のご意向とすれちがってしまい、クレームをいただいたりすることもありますが、そうした経験も含めて成長して、接客を楽しめる人は活躍できると思っています。
3つ目は、自分で考え行動する力を持っていること。よく学生の方から「イベントを企画したいんですけど、島村楽器に入社したらできますか?」という質問を受けます。入社1年目でも何でも、お客様に喜んでもらえそうなイベントで、かつ会社としても実施するメリットが見込めるのであれば、必ず店長が応援してくれます。アイディアをどんどん出して「このイベントをやりたいんです」と手を挙げてほしいです。お客様に喜ばれるイベントで、他店舗でも実現できる企画については、全店に横展開する仕組みも設けています。
日本の人口は約1億2千万人で、楽器演奏人口はその10%ぐらいと言われています。店舗での接客を通じて経営理念の一番目である「音楽を楽しむ人を一人でも多く創る」を実践して、楽器演奏人口を10%から20%、30%に増やしていく意欲のある方と一緒に働くのを楽しみにしています。
代表取締役社長
廣瀬 利明