新連載企画「マイ・ミュージック・ブレーク:仕事と音楽生活」。
「ブレーク(break)」とは、意図的に演奏を止めることによって生み出される音の空白を指す音楽用語。音楽を趣味にされている様々な業界のビジネスパーソンに、多忙な現代社会の合間に差し込んだ音楽生活をどのように楽しみどのように自分の心と体の栄養にしていくのか、インタビュー形式でお話しいただきます。
第一回は、約25万人のリスナー数を誇るポッドキャスト番組「コテンラジオ」を運営する株式会社COTEN(コテン)の代表取締役 CEO、深井龍之介氏。複数のベンチャー企業で取締役や経営顧問を勤める多忙な毎日の中、ベースとギターを学び、音楽を心から楽しんでいるそうです。深井氏の音楽との出会いや、楽器に触れる時間の作り方などについて聞いてみました。
(「歴史を面白く学ぶコテンラジオ_COTEN RADIO」 https://coten.co.jp/services/cotenradio/)
ある日、突然「ベース」という楽器の存在に気がついた
――ベースとギターを2本ずつ所有されているそうですね。
深井 はい、ベースはWarwick Thumb Bassの5弦と、Momoseのジャズベース。ギターはオーダーメイドで作ったTB Guitarworksのエレキギターと、ヤマハのアコースティックギターFGX5です。今、この4本全部を練習しているところです。
――楽器を始めたきっかけは?
深井 両親がビートルズ好きで、ずーっと曲を聴かされて育ちました。だからビートルズはめっちゃ知ってたけど、中学3年生になるまで、音楽にはまったく興味を感じなかった。ところが、なぜか急にマリリン・マンソンというバンドにはまったんです。曲の雰囲気がとても好きで、1日8時間くらい聴いていたときもありました。
――1日8時間ということは、学校でも?
深井 そう、家でも学校でも1日中聴いていました。そうしたらある日突然、曲の中のベースやギターの存在に気づいたんですよ。マリリン・マンソンの「メカニカル・アニマルズ」という曲でした。ベースの音が、ギターと全然違う旋律で流れていて、カッコいいな! と思い、そこからベースにはまっていきました。
――そこで、初めてベースを手に入れたのですね。
深井 最初はギターを弾こうと思ったんですが、ベースの魅力に気付き、高校入学直前にベースを買いました。でもすぐに受験勉強が始まり、「大学に入ったらちゃんとやろう」と思って、辞めてしまったんです。
「才能ない……」と挫折したベース。今は楽しむことだけに集中
――大学ではバンドサークルに入部して、思いっきり音楽を演奏した?
深井 それがね……。バンドサークルには入ったんですが、実はあまり音楽を楽しめなかったんです。
――それは残念でしたね……。
深井 そのころ僕は完璧主義者で、組んだバンドのメンバーにとても高いレベルの演奏を求めていた。もちろん自分自身にも。でも演奏の才能がないから、弾いている自分の音を聴くと“ダメすぎる”と思ってしまって、全然楽しめないんですよ。音楽が好きだからこそ、自分の演奏に耐えられなくて、2年ぐらいでバンド活動を辞めてしまいました。そして別のこと、僕の場合は仕事に集中していって、10年間くらいは音楽から離れていました。
――でも現在は、音楽をとても楽しんでいるんですね。
深井 3年ほど前に楽器演奏を再開しました。それからは以前のことは気にせず、とにかく音楽を楽しむことに集中しています。
楽器を弾くことによって、人生のバランスが整う
――なぜ、再び音楽に向かおうと思ったのですか。
深井 この10年ほど、脳をクールダウンさせる方法を探していたんです。僕はベンチャー起業家という仕事をしているので、いつも過労状態で脳が興奮している。息抜きできる方法をいろいろ試してみましたが、その中でいちばんすっきりするのが、ベースやギターを弾くことでした。
――ゲームやスポーツをしてリフレッシュする人もいますが、深井さんには楽器の演奏が合っていた?
深井 僕もゲームが好きで時々やるけれど、目が疲れるし、攻略に論理的思考を使うことも多い。結局、仕事の時と同じ脳の部分が動いてしまうんです。スポーツはどうやって勝つかを考えなくちゃいけない。でも楽器演奏は、勝ち負けとは関係ない世界ですよね。
――楽器を弾くと、どのようにリラックスできるのでしょう。
深井 ベースやギターを弾いていると、脳が、瞑想というか陶酔というか、そういった状態に簡単に入ることができるんです。そのときはめちゃくちゃ気持ちいい。特にバンドで演奏していて、全員の音が合っているときのえもいわれぬ感覚。あの状態のリフレッシュ度合いや、癒やされる感じって、バンドをやったことある人は全員知ってると思いますが、言葉で表現できない気持ちよさですね。
(編集部注:楽器演奏が脳や心に良い影響をもたらすことは、科学的に証明されているそうです。ご興味がある方は記事『脳科学で解明せよ!脳&心が喜ぶ“楽器演奏”のメリット』もぜひご覧ください!)
――楽器を演奏するのは、深井さんにとって欠かせない時間なのですね。
深井 どれだけ好きだとしても、人はずっと仕事だけし続けることはできない。僕は音楽を楽しむという要素がないと、人生のバランスが取れないので、それに没頭できる時間がすごく重要だと思っています。
楽器を弾き続けると、新しい自分と仲間に出会える
――楽器演奏という趣味が、とても良い方向に作用しているんですね。
深井 それだけじゃなくて、楽器演奏は蓄積だから、弾き続けている限りどんどんうまくなり続ける。去年の自分より今の方が、フィーリングも表現もうまくなっていたり、違うフィーリングで表現できたりする、それも気持ちいいんです。「じゃあ僕が老人になったときって、ベースもギターも、結構弾けてるはずだよね!」と思えますしね。
――初めて会った人でも「楽器を演奏しています」というと、打ち解けるきっかけになることもあります。
深井 経営者って、意外と、バンドマンだった人がたくさんいるんですよ。バンドマン同士だとすぐに仲良くなれるし、さらに同じアーティストが好きだったりすると、もう、仕事をする前から信頼されるくらい。お互いにどんな音楽が好きか知っているだけでも、相手の人格に触れたり考え方をシェアしたりできる。そこも面白いね。
早く始めれば始めるほど、人生が楽しくなる!
――「楽器を始めてみようか」と考えている皆さんに、アドバイスをいただけますか。
深井 もう本当に、サッと始めた方がいい。そして始めるなら、自分がめちゃくちゃ好きな音の楽器を。ギターで言うなら、開放弦で鳴らしているだけで「この音が好き!」と思う楽器だと、続きやすいと思います。
――やりたいと思ったら、すぐに始めるべきだと。
深井 そう。もうひとつ重要なことなんですが、楽器って、まったく弾かなくても、オブジェとして部屋にあるだけで気持ちいいんですよね。だから楽器のビジュアルにもこだわった方がいい。
――例えばギターだと、コードが押さえられずに挫折してしまう人も多いです。
深井 コードを移動できるようになるまでは大変なんですよね。僕もまだ全然できないけれど、それでも1回覚えれば一生物になるじゃないですか。僕は10年ぶりにベースを弾き始めたとき、1ヶ月で元に戻って、タブ譜を見るだけで曲が弾けるようになった。一度覚えれば、時間が空いてもすぐにキャッチアップできるんです。
――楽器の演奏は、時間が経っても忘れないんですね。
深井 だから早く始めれば始めるほど、その後の人生が楽しくなるんですよ。楽器をある程度弾きこなせる状態って、本当に楽しいですから。
――多忙な中、どのくらい練習時間を取っていますか。
深井 月に2時間ほど、ベースとギターのオンラインレッスンを受けています。あとは空いた時間に少しずつ。それでも確実にうまくなりますよ。
――レッスンを受けようと考えた理由は?
深井 ひとりで練習するより、圧倒的に効率がいいんです。自分では気づかない演奏上の課題を教えてもらえるし、他にも習うことがたくさんあります。
――レッスンの時間以外はどのような練習を。
深井 家にいて、楽器に触れられる時には必ず触る。もう2、3分でもいいから触る。それを毎日やっていれば、必ずうまくなれます。僕はそんなに上手ではないけれど、それでもちょっとずつは上達していますよ。
将来の目標はバンド結成と、娘さんとの合奏
――現在お持ちの楽器を選んだポイントを教えてください。
深井 ベースのWarwickは、「マッドヴェイン」というバンドのベーシストが使っているモデルです。木目がいいなと思って買いましたが、すごく重いんですよ! もう1本、Momoseのジャズベースは、こちらも唯一無二の木目が気に入って購入しました。音はあまり調べずに買いましたが、結果とても良い音でした(笑)。
――エレキギターは注文製作だそうですね。
深井 これは、僕の1本目のちゃんとしたギター。こちらも見た目にはこだわった。特にヘッドは、手で削ってこの形にしてもらいました。基本的にこの形のテレキャスターは他に存在しないはずです。それからヤマハのアコースティックギターは、あまりこだわらずに買ったのですが、いい音がします。
――将来、こんな音楽活動をしてみたいということがあったら教えてください。
深井 まず、ベースとギターを両方ちゃんと弾けるようになりたい。この曲が弾きたい、と思った時に、どっちでも弾けるようになれば、人生が楽しく、豊かになると思うんです。それから、将来的にはやっぱりまたバンドを組んで、アンサンブルがしたい。そして、今はまだ小さい娘と、いつか合奏ができたらうれしいですね。
株式会社COTEN 代表取締役 CEO 深井 龍之介
ふかい・りゅうのすけ。1985年、島根県生まれ。九州大学文学部社会学研究室を卒業後、大手電機メーカーの経営企画部門に配属。2011年に独立後は、複数のスタートアップ・ベンチャー企業の経営に参画し、16年にCOTENを設立。かねてよりやりたかった「歴史のデータベース化」を事業として開始。3500年分の世界史情報を体系的に整理し、数百冊の本を読んで初めてわかるような社会や人間の傾向・パターンを、誰もが抽出可能にする世界史データベース「coten」を開発中。