楽器演奏は単に楽しいだけでなく、「脳」や「心」にとって良い影響をもたらすって知っていましたか?今回は、音楽と脳の関係性を研究する専門家に、“楽器演奏がもたらす脳や心へのメリット”について教えてもらいました!
監修してくれたのは…田中昌司さん
上智大学教授。大学の脳科学研究室で主宰を務め、音楽家の演奏時の脳活動や音楽鑑賞時の脳活動のイメージングと解析を行っている。日本声楽発声学会理事、日本音楽表現学会編集委員。著書に『音楽する脳と身体』『音大生・音楽家のための脳科学入門講義』(ともにコロナ社)などがある。
~登場人物紹介~
ミューさん:幼い頃から楽器を習い、さまざまな楽器を演奏できる
ブックさん: 本を読むのが好きで好奇心旺盛。最近は楽器にも興味津々
ブックさん、これから楽器をはじめようと思っているって本当?
うん!最近読んだ本で、楽器演奏が記憶力やメンタルに良いと知って興味が出てきて。詳しくはまだ勉強中なんだけど…。
たしかに楽器演奏では楽譜を覚えるから記憶力がつきそうだし、楽器に触れていると心が安らぐような気がする。なんだかもっと詳しく知りたいな。
よし、脳科学の専門家に聞いてみようか!
そうしよう!
楽器演奏で脳が活性化!? 脳内“ネットワーク”が鍵に!
楽器演奏で記憶力がアップしたり、メンタルコントロールができるようになったりする秘密は、脳内の「ネットワーク」にあるんですよ!
そもそも脳内にはさまざまな部位があり、その部位が複雑に結びつくことで、活動に必要な情報処理をしています。その部位と部位の結びつきを「ネットワーク」と表現します。
楽器を演奏しているときは、この「ネットワーク」が活発化&強化されるのです。
また、脳内の部位は、使われると活性化し使われなくなると衰えてしまうので、よく使うネットワークはよく働き、機能が向上します。
脳内ではいろんな部位が連動して、ネットワークが形成されているのですね!
ではなぜ演奏によってネットワークが活発化・強化されるのでしょうか?
演奏ではさまざまな部位が同時に働き、結びつきが強まるからです。さらに、練習を続けることで使用される頻度が増えるので、自然とネットワークが強化されていくんですよ。
楽器演奏は、ほかの活動や趣味よりも脳内ネットワークが活発になるということですか?
比較的そうですね。例えば、視覚を主に使う読書と比べると、演奏には視覚・聴覚・体の動きなど、目に見えるだけでも多くの機能が必要なことがわかります。
たしかに!具体的に演奏中の脳内はどのように働いているのでしょうか?
それでは、4つのシーンごとに見てみましょう!
【4つのシーン別】演奏で生じる脳のメカニズム
1 【演奏準備】楽譜の理解や思考の言語化などには「前頭前野」が働く
楽譜やメロディを認知・理解するときや、思考するとき、考えたことを言語化するときに働く部位が「前頭前野(ぜんとうぜんや)」です。
物事を理解するときだけでなく、会話をする場面でも使われています。さらには意識を集中させる役割もあります。
2 【演奏直前】“無意識のイメトレ”で「補足運動野」が働く
演奏しようと思っていきなり体が動くのではなく、まず「補足運動野(ほそくうんどうや)」が働き、「どのように指や体を動かすかといったイメージ」=「運動プランニング」が無意識下で行われています。
このイメージトレーニングがスムーズに行われることで、思ったように体や指が動くようになるのです。
3 【演奏中】“感情の表現”には「右脳」と「運動野」が働く
楽しい・悲しいなどの感情を、音の強弱やタッチ、ため具合などで表現する際に「右脳」と「運動野(うんどうや)」が結びつきます。
この2つの結びつきが強まることで、表現力豊かな演奏になります。
4 【演奏前や演奏中】“演奏に込める感情などをイメージするとき”は「内側面」が働く
演奏で表現したい感情やシーンなどを心の中で思い浮かべる際に、「内側面(ないそくめん)」が活発に働いています。
「内側面」が③の部位(右脳・運動野)と結びつくことで、イメージしたことを演奏で表現できるようになります。一見関係のなさそうな部位でも呼応し合うのが脳内ネットワークの面白さなのです。ちなみに、聴くことなど外に意識が向いているときは「外側面(がいそくめん)」が働きますよ。
脳のネットワークは音を出すというアウトプットだけでなく、感情やイメージにも関係してくるのですね。
そのとおり!また、脳は「感情」と「演奏技術(運動機能)」のどちらかのコントロールに傾いてしまう性質があり、感情を表現しつつ完璧に演奏することはとても難しいことなんです。だからこそ、両者のバランスが取れたとき、人を感動させられるようなレベルの高い演奏になるのだと私は思います。
“感動する音楽”という抽象的なテーマを脳科学でも説明できるのですね…!奥が深い。
私も自身を振り返ってみると、演奏中は楽譜を見たり、感情を込めたりといろんな動きを同時に行なっているなと気づきました。
そうなんですよね。だからこそ、単に楽器が弾けるようになるだけでなく、脳の機能が向上するなど、二次的なうれしい作用が得られるんですよ。
脳と楽器演奏の関係性についてわかってきたので、メリットについても詳しく知りたいです!
日常でも役立つ演奏による11のメリット♪
~演奏のメリット~
【知能面】
- 認知力&記憶力がアップする
- 集中力&注意力が高まる
- 思い通りに体が動かしやすくなる…演奏前や運動前のイメトレもできるように
- 視覚からの処理能力がアップ…楽譜を目で追い即座に理解するため
- 表現力が身につく
- 創造性が高まる…右脳が働くことで創造力も向上する
- 言語が身につきやすい…聴覚が発達するため、言葉を覚えやすいといわれている
- 自分自身を理解できるようになる…どんな演奏をしたいか・何のために演奏するのかと自分自身を見つめる機会が多いた
【メンタル面】 - メンタルコントロールができるようになる…⑧のように客観的に自分を見つめる力がつくため。落ち込んでいても立ち直るのが早い人も
- ストレス発散になる
【社会的な面】 - コミュニケーション力・協調性が身につく…人と話したり、人と演奏を合わせたりすることで、コミュニケーション力や他者との協調性が身につく
私の実感としても、音大生とは会話がよく弾む印象があります。おそらく、長い時間楽器に触れてきたことで、質問やアイデアが生まれやすい脳になっているのだと思いますね。
先生も実際にそう感じたことがあるのですね!
私は音大生ほど音楽に触れることが難しいのですが、このメリットがより発揮されやすくなるポイントがあれば教えてほしいです!
ありますよ。脳をより良い状態にするには「デフォルト・モード・ネットワーク」が鍵となります!
演奏の質やメンタルを向上させる「デフォルト・モード・ネットワーク」
脳にとって良い状態なのが「デフォルト・モード・ネットワーク」です。
「デフォルト・モード・ネットワーク(以下DMN)」とは、何もしていない状態で働く脳のネットワークのこと。ぼーっとしているときにこそ、この特別なネットワークが働き、脳は活発に動きます。
例えば、ゆっくりお風呂に入っているときに、ふとアイデアが浮かんだりしませんか?
よくあります!たしかに、何もしていないように思えて、意外と脳が冴え渡っているかも。
楽器演奏でも、弾き慣れた曲だと気持ちよく演奏できますよね。まさにその瞬間にDMNが働いていて、スラスラと弾けたり上手く感情が乗せられたりするのです。
私は気持ちよく弾けると、ストレス発散にもなります!
まさにメンタル面にも作用しますよ。DMNが活性化するとドーパミン※などが分泌されやすくなり、喜びを感じたり、ストレスや悩みなどを紛らわすことができます。※脳内ホルモンのひとつ。多幸感や快楽、意欲に関係する
DMNってすごい!できればこの状態をキープしたいな。
DMNはリラックス状態のときに発動するので、何事も楽しむことが重要です。厳しいレッスンだけでなく、楽しく演奏することは、脳にとっても良いことなんですよ。
そうだったのですね。楽しむことを忘れずにこれからも演奏していきます!
何歳からでもOK!ハッピーな音楽ライフをはじめてみては?
先生、今日はありがとうございました!
私も話を聞いて、本格的に楽器をはじめたいと思うようになったのですが、楽器演奏をはじめるのに適した年齢はありますか…?
3~4歳くらいから聴覚機能が発達してくるので、そのくらいに楽器を習うことで絶対音感などが身につきやすくなるといわれています。ですが、私は楽しめれば何歳からでも良いと思っています。
ちなみに、脳科学的におすすめの音楽ジャンルなどはありますか?
ジャンルも関係なく、自分が好きなもの、楽しめるものがいちばん良いと思います。脳にとっては楽しむことが何よりも大切なんです。
私もミューさんに教わりながら、楽しく楽器を演奏しようと思います!
皆さんも、ミューさんとブックさんのように、脳にも心にも良い音楽ライフをはじめてみませんか?
キャラクターイラスト/あずきみみこ