楽器をイメージしたフレーバーが人気のクラフトビール専門店「バタフライブルワリー」に行ってみた

本格的な夏を迎え、ジリジリと暑い日が増えてきました。そんなときには、キンキンに冷えたビールが飲みたくなりませんか?

今回編集部は、楽器の音色をイメージしたというビールが愛知県のクラフトビール専門店「バタフライブルワリー」にあるという情報をキャッチ!

バタフライブルワリーでは“音楽を聴きながらビールが飲める場所を”をコンセプトとし、醸造と販売に加え、ミニコンサートも開催しているそう。クラフトビールのフルーティな味わいと豊かな香り、そして多彩な音楽が楽しめるお店を訪問しました。

バタフライブルワリーの美味しさの秘訣とは

近年、ますます人気が高まっているクラフトビール。ブルワリー(製造所)や製造会社の数も年々増加傾向にあり、現在では全国に600以上の製造会社が存在していると言われています。

そんな中、2021年に愛知県春日井市で初のクラフトビール工房としてオープンしたのがバタフライブルワリーです。

バタフライブルワリーは、春日井市出身のオーナー・入谷公博さんと、入谷さんの大学の同級生で醸造を担当する玉城仁志さんが2人で運営。ビール醸造と販売、ミニコンサートを開催し、音楽を通じて誰もが気軽に遊びに来られる場所を目指しています。

バタフライブルワリーのビールは、香りが豊かで飲みやすいと評判があります。店舗はもちろん、オンラインストアを通じて全国から購入が可能です。最近では、飲食店や酒屋からの注文も増えているそう。

その美味しさの秘訣はビールの作り方。クラフトビールの製法を大まかに分けると、ビールの元となる麦汁を作る「仕込み」⇒アルコールを生み出す「発酵」⇒味をまろやかにしてフレーバーをつける「熟成」といったステップがあります。「熟成後のビールを濾過するときに、酵母を取り切らず残すことで、すごく香りが良くなるんです」と入谷さん。

また、ビール作りでは発酵温度がポイントに。バタフライブルワリーが取り扱っているエールビールの発酵温度は約20度ですが、きちんと管理しないと発酵不良からオフフレーバー(※本来の風味とは異なる香りや味が出ること)となってしまいます。季節によって外気温が変化する不安定な環境で、いかに安定した味わいを生み出すか――醸造長の玉城さんは「そこに難しさと楽しさを感じます」と語ってくれました。

▲商品の人気が高まっているため、現在は生産体制を強化中。左側の鍋は仕込みの煮沸用。写真中央にあるタンクは発酵用で、取材後に新しいタンクが3つ追加されました。

バタフライブルワリーでは、生産量をある程度コントロールできるため、現在の設備でも回転を早くし、さまざまな材料を使った種類豊富なビールを作ることができます。そのため、なんと13種類ものビールをラインナップ。すべての商品に楽器の名前がついているのも特徴です。

楽器をイメージしたビールが生まれた理由

楽器がパッケージにデザインされたビールは大手メーカーにもありますが、すべての商品に楽器の名前を用いるケースは珍しく、そこにバタフライブルワリーの個性とこだわりが表れています。

商品名を楽器にしたのは、入谷さんの妻である故・髙嶋光江さんのアイデアによるもの。生前の光江さんはフルート奏者として活躍し、ベル・ルミエールというユニットに所属していました。そのためオープン当初は光江さんに縁がある楽器になぞらえて、フルート、ピアノ、サックス、マリンバ、ジャンベ、ハープという6種類の商品を生産していたそうです。

その後ラインナップは徐々に増え、2023年7月現在では13種類に。先行の6種類に加えて、トランペット、クラリネット、和琴、ヴィオラ、オーボエ、ハンドパン、ギターといった名前のビールを揃えています。

▲一番の人気商品はホワイト・ペール・エールの「フルート」(右から3本目)。軽やかですっきりした味わいが魅力で、優しい苦味はビールが苦手な人でも飲みやすいと大好評です。

各ビールは、個々の楽器の特徴を捉えたうえで命名しているそう。たとえば「和琴」は、日本酒酵母を使用していることが由来。フルーティな「マリンバ」のビーツを使った鮮やかなピンク色は、カラフルなマレットを彷彿とさせます。コーヒーの風味が感じられる「ハンドパン」は、“ビールなのにコーヒーの味がする”といった意外性から連想したとのこと。開発にあたり、MIOというユニットでハンドパンを操るパーカッション奏者の立花朝人さんに楽器の特徴についてヒアリングを行いました。

このように、味わいから楽器を連想することもあれば、時には楽器のイメージからアイデアを膨らませることも。奏者の方に実際に意見を聞くことで、よりその楽器のイメージに近い味わいを実現しているのでしょう。

▲楽器と蝶々を配したかわいいラベル。よく見ると、描かれている音符が異なっています。演奏してみると、あるメロディが浮かび上がってくるかも…。

コンサートスペースが今秋リニューアル

“音楽を聴きながらビールが飲める場所を”がコンセプトのバタフライブルワリーでは、2か月に1回程度のペースでミニコンサートを開催しています。

ビールを飲みながら屋外の風を感じ、ゆったりと音楽を楽しむ…アットホームで贅沢な時間を過ごせると、観客からも演奏者からも愛されている催しです。

コンサートスペースをさらに快適な場所にするべく、2023年の春からクラウドファンディングを行いました。そして7月16日に目標金額を115%達成し、見事成功。コンサートスペースは今秋にリニューアル予定です。今後は文化フォーラム春日井といった地元施設と一体となり、より気軽にコンサートが楽しめる場を作り上げていくとのこと。

▲2023年5月6日に開催されたコンサートの様子です。左から、マリンバ・松下彩野さん、ジャンベ・菊池秀樹さん、ピアノ・市谷直美さん、フルート・横山聡子さん。

コンサートのお供に欠かせないビールは、“量り売り”での購入がおすすめです。量り売りとは、お客さん自身が専用ボトルを持ち込み、ビールを好きな量だけ購入し持ち帰ることができるシステム。瓶で購入するよりも価格がお得で、ゴミを削減できるため環境にも優しいです。

▲量り売りで購入したビールは、ブルワリーの外に設置されたスペースで飲めます。
▲グラウラー(量り売り用ボトル)はバタフライブルワリーの店舗やオンラインストアで購入できます。

バタフライブルワリーではSDGsへの取り組みも積極的で、ビールの量り売りもその一環です。そのほか、ビール製造時に100キロ以上出る“麦芽かす”の再利用も取り組みのひとつ。通常は産業廃棄物となりますが、これを天日干しにし、ヤギのエサや畑の肥料として再利用します。さらにその畑でできたビーツをビール作りで活用する試みも始まりました。

オーナーと醸造長にインタビュー

最後に、ブルワリーを運営するおふたりにインタビューを行いました。

――ブルワリーを始めたきっかけは?

入谷さん

もともとビールは飲む専門だったんですが、2020年の春先から本格的にビール作りをやりたいなと思いました。2020年4月に子どもが小学1年生と幼稚園の年少に上がって妻もちょっと手が空いて、自宅でフルート教室を始めまして。本当は僕は家業を継ぐつもりでいたんですが、自分で事業を始めることになり、いろいろ計画していたときに彼女が“音楽を演奏しながらビールを飲めたらいいよね”と。

そこから計画が進んでいったものの、妻が突然病気で亡くなってしまいました。でも、ブルワリーは妻との夢でもあったので、何とかやりたいという思いがあって。それに子どもを保育園や学童に預けるのではなく、家で側にいてあげたいと思ったので(※ブルワリーは入谷さんの自宅に隣接)、オープンまでこぎつけられましたね。

――努力を続けられたモチベーションは何だったのでしょうか。

入谷さん

子どもの笑顔を見ながら仕事ができることですね。あとは家族や友達など、周りの人に支えてもらいました。妻の音楽仲間の方たちとLINEをして子どもたちの様子を伝えたり、そういう日々のやり取りもモチベーションになりましたし、子どもたちに毎日誰かしらが会いに来てくれたので、それで乗り越えられました。

――定番商品が13種もあって、バリエーションの豊富さに驚きました。

玉城さん

他の醸造所の方からも驚かれますね(笑)。一般的には、定番商品が3~4種類あって、あとは季節限定商品をいくつか置いているところが多いと思うんです。でも僕らは楽器の名前を使っている以上、商品は常に用意しておきたいなって。

入谷さん

自分が昔弾いていた楽器の名前のビールを購入するとか、“楽器買い”の方も結構いらっしゃるんです。

玉城さん

たとえばピアノのコンサートに行く前にお土産で買っていくなら、やっぱり「ピアノ」のビールがいいですよね。

――楽器のチョイスも意外性があります。

入谷さん

なんでホルンやトロンボーンはないんだ、とかは言われます(笑)。バイオリンやチェロをはじめ、まだ名づけずに取ってある楽器もあるんですよ。

――まだ増える可能性があるんですね。

入谷さん

店頭に常に置く種類としては15個ぐらいまでが限界だろうなと思っていますが、どんどん新しい商品は増やしていきたいです。次に出すものはまだ決まっていないんですけど、玉城が沖縄出身なので、沖縄の楽器とかは面白いかな。

玉城さん

沖縄の食材を何か使ってやりたいですね。あと、僕らが目指しているところとして、まだビールのことがわからない方も含めてたくさんのお客様に受け入れてほしいと思っているので、極端に苦味があるものは今まで出してこなかったんですよね。でも、苦味があるものも限定で出したら面白いのかなと。新しいスタイルは増やしていきたいですし、いろいろと挑戦したいと思います。

――ブルワリーを運営する上で大切にしていることは?

入谷さん

お客様がここに来たらワクワクできる場所にしたいです。新商品や新しいグッズを増やしたり常に変化するようにとか、あとはいろんな企画をやっていきたいですね。今まで支えてくれてた方に恩返しできるように、ここの敷地内でできることを充実させていきたいなと思っています。何より、楽しみながらやりたいなというのが一番にありますね。

一番人気の「フルート」は、暑い夏にもピッタリ。また、食事と合わせやすくスパイシーな「クラリネット」もこの夏のおすすめ商品だそう。猛暑が見込まれる今年の夏を、冷たく爽やかな味わいのクラフトビールで乗り切りましょう!

バタフライブルワリー(Butterfly Brewery)
2021年11月3日にオープンしたクラフトビール専門店。“音楽を聴きながらビールが飲める場所を”をコンセプトに、ビールの醸造・販売だけでなく、1年を通じてミニコンサートを開催。音楽を通じて、誰もが気軽に遊びに来られるようなブルワリーを目指している。名前の由来は所在地の愛知県春日井市の形が蝶に似ていることから。●営業時間:11:00~20:00 ●定休日:日曜・月曜 ●住所:愛知県春日井市大手田酉町1丁目2-7 ●問い合わせ:08048670322/mail@butterflybrewery.jp

この記事を書いた人

神保未来

編集者、ライター、時々カメラマン。『Go!Go!GUITAR』の編集を経て、現在は音楽媒体を中心にフリーランスで活動中。趣味はフィルムカメラで写真を撮ること。