大阪発のピアノロックバンド・SHE’Sが、6thアルバム『Shepherd』をリリースした。カントリー調のサウンド、爽やかなメロディが印象的なリード曲『Boat on a Lake』、アニメーション映画『ブルーサーマル』の主題歌『Blue Thermal』などを収録した本作は、バラエティに富んだ音楽性とメンバー個々のプレイアビリティを堪能できる1枚に。アルバムの話のほか、彼らに楽曲制作の仕方やこだわっている部分、愛用している楽器についても聞いた。
“ピアノロックバンド”SHE’Sのメンバーが楽器を始めた理由
――まずは皆さんが楽器を始めたきっかけを教えてもらえますか?
幼稚園の年長のときに、ひと回り上のいとこがピアノを弾いてるのを見て、カッコいいなと思って。親に頼んで週1で習い始めました。基本的には楽しく弾いていたんですけど、ムラはありましたね。練習がイヤだなと思うこともあったし、中1でギターを始めてからはピアノをちょっとお休みする時期もあって。習っていたのは中3まで。当時、マンガ「のだめカンタービレ」を読んで、ちょうどドラマも放送されていたので影響を受けて「俺は音大に行くんだ、ピアノ頑張るぜ!」っていきなり頑張り始めたことがあり、音楽系の高校にも行こうと思ったんですけど、結局難しくてそれと同時にピアノは一旦やめました(笑)。
――ピアノロックバンドを作ろうと思ったきっかけは、海外の“ピアノエモ(ピアノを使ったロックのいちジャンル)”の影響だったとか。
はい。高校2年のときにアメリカのピアノエモのシーンを知って、“こういうバンドは日本にはいないな”と思ってやってみようかなと、メンバーを集めました。高校生の頃は坂本龍一さん、久石譲さんの曲を弾くことも多くて、そこからまたピアノ弾きたいな~と思っていた時期でもあったので。
僕がギターを始めたのは中学のときですね。何か趣味が欲しいなと思い(笑)、誕生日にギターの初心者セットを買ってもらって。最初にコピーしたのは小学生のときから好きだったORANGE RANGE。その後、父親が「KISSはいいぞ」と教えくれて、そこから70~80年代のハードロックにハマりました。色々コピーしていくうちにハードロック以外の曲も自分で調べて知るようになって、中3のときに臣吾(広瀬)と同じクラスになり、ふたりで洋楽の話をしてましたね。臣吾とは、それで仲良くなったんです。
僕は幼稚園のとき、家におもちゃのキーボードがあって、弾いてみたら「面白いな」と思って、ピアノをやらせてくれって親に頼んだのがきっかけですね。ただ、(ピアノの基礎である)バイエルが全然面白くなくて(笑)。
そうやな(笑)。
ピアノはあまり続かなかったんです。けど、小4の頃からバンドを好きになって、中学のときにアコギを弾きたくなって。当時は“アコギ=ゆず”だったんですよね。で、中3のときに文化祭でバンドをやることになり、エレキギターを買ってもらって。家に弟のベースがあったから遊びで弾いてたこともあって、栞汰(服部)とバンドを始めたときに、「(服部がギターなので)俺はベースやるわ」みたいになりました。
――色々ひと通り楽器をやられているんですね。
そうですね、飽き性なのかもしれないです(笑)。ただ、ベースは自分にしっくりきている感じがありますね。
キム(木村)は?
小学校5年のときに地元の大阪であったバンドの大会をテレビで放送していて、“ドラム、カッコいいな”と思って、習い始めたんです。初めて演奏したのはTHE OFFSPRINGの曲で、そこからポップパンクのバンドをカバーしていましたね。ずっと洋楽ばっかり聴いてたんですけど、SHE’Sのメンバーになってからは邦楽も聴くようになりました。
――現在使っている楽器についても教えてもらえますか?
KORGのKRONOS(クロノス)ですね。以前は別のメーカーのキーボードを使っていたんですけど、ゲネプロで試しにKORGを弾いたら、すごく良くて。ピアノの音も綺麗だし、抜け感もあるんですよ。バンドとのマッチングもいいですね。
ジェームス・タイラーのThe Black Classicです。スタジオミュージシャンで使ってる方はいるんですけど、バンドマンでこのギターを弾いてる人は少ないかも。ストラトキャスタータイプなんですが、昔ながらのしっかりした作りで、幅広い曲に対応できるんですよ。アコギはタカミネギター。ちょっとボディが小さめで、リードを取るときも弾きやすいです。
フェンダーのジャズベース、1962年のビンテージです。2020年の初め頃、先輩と楽器屋に見に行って。試し弾きしてすごく良かったから欲しかったんですけど、値段も値段なので「ちょっと考えます」って言ったら、先輩に「絶対に買え」と後押しされて(笑)。王道のジャズべースだし、いい意味で音に個性があって。本当に買って良かったと思ってますね。
DWのジャズシリーズのドラムセットを使ってます。DWはロックのイメージが強いんですけど、このセットはどちらかというと柔らかい音で、対応できる音楽の幅が広いんですよね。スティックはLERNIで作ってもらってます。太くもなく、細くもなく、絶妙なサイズなんですよ。
作品を作るたびに新しい要素を取り入れたい
――作曲などは、どのようにやっているんですか?
バンドを組んだ当初は、パソコンでの作曲はしていなかったんですよ。僕が弾き語りしたものを持っていって、なんとなく「ドラムはこんな感じのリズムで、コードはこう」とか口で伝えて、あとはメンバーに任せていました。
音源をもらうとかじゃなかったもんね。スタジオで聴いて、自分で弾いたものをスマホで録音してコード進行を覚えるってやり方をしてました。
――パソコンを使ってデモを作るようになったのはいつ頃?
2014年にパソコンを買ったので、バンドを結成して3年ぐらい経ってからです。でも、音源をデータで送り合ったりはなかったよね?
してない。竜馬の家に一人ずつ行って録音してた(笑)。
そう、ある程度、自分で打ち込んでから、その上で弾いてもらってましたね。せっかくパソコン買ったのに10%ぐらいしか使いこなせてなかった(笑)。
まあ、お互い家が近かったっていうのもあるよね(笑)。
――そういうやり方も、その場で意見交換し合えるからいいですよね。SHE’Sの曲は、ストリングスが入ってきたり、シンセベースを使ったりなど、どんどん音楽性の幅が広くなってきていると感じます。それは意識して広げてきたんでしょうか?
バンドをやっていくうちに広がってきたのはもちろんですが、性格的に同じことをずっとやるのは好きじゃないんですよね。リスナーとして音楽を聴くときも、「前作と雰囲気が一緒だな」と思うと、ちょっと萎えちゃうというか。なので自分も、作品を作るたびに新しい要素を取り入れたいという想いはつねに持っています。あとは単純に、自分が好きな音楽が増えたっていうのもありますね。
僕もバンドを続けることで、幅が広がった感じがあって。竜馬に「これいいよ」って知らないアーティストを教えてもらったり。全然聴いてなかったヒップホップにも興味が出てきたり、「こういう音楽にギターを入れるんだったら、どうしたらいいやろう?」って考えるようになりましたね。最近は竜馬が新曲を持ってくるたびに、「こういうアレンジが合うやろうな」ってスッと出てくるようになってるんですよ。竜馬の曲が新しい引き出しを開けてくれる感覚がありますね。
僕も栞汰と同じような感じですけど、最近は自分がいる意味みたいなものを入れたいと思うようになって。ベースラインに自分のエッセンスを加えることが増えてきたんです。勝手にR&Bっぽいフレーズを入れてみるとか、誰にも気付かれなくていいんですけど(笑)、自分らしさを入れることで曲の奥行きが出たら嬉しいし、それが違う人間が集まって音楽をやる意味なのかなと。
僕は、竜馬が聴いてる音楽を共有したり、送られてくる新しい曲を聴いて、「最近はこういうリズムが好きなんやな、じゃあこういう風に叩こう」とか、できるだけ素早く対応できるように心掛けてます。好きな音楽の幅も広がりましたね。
一時期、カントリーばっかり聴いてたよな。
そうやな(笑)。ジャンルにハマる傾向があって、カントリーを聴いたり、ハードロックにハマったり。今は一周回ってポップパンクばっかり聴いてます。
――ニューアルバム『Shepherd』は、井上さんが小説『アルケミスト - 夢を旅した少年』から着想を得たそうですが、このアルバムで新たにチャレンジしたことは?
サウンドもそうなんですけど、どちらかというと歌詞の内容やコンセプト的なことですね。大きいのは社会的な問題だったり、政治的な内容に初めて手を付けたんですよ。今まで避けていたんですけど、勇気を持って踏み込んだというか。そこが自分としてはいちばん新しいのかなと。外からのイメージもあると思うんですけど、音楽家がそういう問題を主張するのって、日本では結構難しいじゃないですか。海外の場合は、自分たちと同世代のアーティストもバンバン発言するので、そのあたりはかなり違っていて。日本でも昔は、ロックやフォークのアーティストがそういう発信をしてたんですけどね。
――90年代以降は、社会的な発言や表現がタブーになってたところもありますからね。
そうですよね。でも、これだけ色々な出来事があって、時代も変わっていく中で、商業的にだけ音楽をやってるのもイヤだな思うようになって。一歩踏み出す勇気をもらえたのが、『アルケミスト - 夢を旅した少年』だったんですよ。もちろん知らないこともいっぱいあるし、専門家でも何でもないけど、「これはおかしいんじゃない?」と疑問を抱いたときはちゃんと調べたり、自分で知ろうとすることは大事だと思うんです。自分たちの世代が動かないと変わっていかないし、ひとつのきっかけになったらいいな、と。
普段そういう話をしてるわけではないけど、歌詞を読めば考えていることはわかりますからね。
アルバム『Shepherd』における新たなトライ
――サウンドやアレンジ、演奏面ではどうですか?
ずっと“ジャンルに捉われない”という意識でやってるんですが、このアルバムも今までになかった感じの楽曲、リスナーの皆さんが聴いて「今回はこんな曲が入ってるんだ」と楽しめるんじゃないかなと。先にリリースされている『Blue Thermal』『Raided』ともまた異なる楽曲が収録されています。
――『Super Bloom』のギターソロは、素晴らしいですね。
竜馬から送られてきたデモの段階からハモりのソロが入ってたんですよ。ここまでがっつりハモったのは今までなかったかも。自分のパートはQueenのブライアン・メイを意識しました。フレーズ、音色、音の切り方もそうですけど、好きな人が聴けば「ブライアン・メイだ!」と思ってもらえるかも。
基本的にはベーシックなベースプレイを意識していたんですけど、今回は彩りを意識して、いつもより華やかになるようなフレーズを考えてましたね。スラップしている曲もあるし、シンセベースも取り入れて。
それはすごい感じたな。積極的にフレーズを作ろうとしている意欲が伝わってきた。自我が芽生えたというか…。
確かに自我は強くなってるかも(笑)。自分がやりたいことを体現できるようになったのは大きいし、自分のなかではかなり挑戦的なアルバムになりましたね。
バンド感が強いアルバムになったと思います。ドラムに関しても、バンドを始めたころの初期衝動だったり、バンドが楽しいという感覚が詰まってたりしているというか。ここ1、2年、自分のなかでドラマーとしての成長が止まっている感じがあったんですよ。でも、アルバムの制作を始める前のツアーでグッと成長できた感覚があって。それが表現できたのは良かったです。
そう感じられたのは良かったんちゃう? キムは現実をしっかり受け止められるし、先のラインもちゃんと見えてる人やから。
――シンセの音作りは、井上さんお一人でやられているんですか?
基本的にはそうですね。たまに自分が作った音と臣吾が考えた音を合わせて作ることもありますけど。
――音を作る際のこだわりは?
そこまで厳密にこだわっていることはないんですよ(笑)。実機じゃなくてプラグインで作ってるし、そこまで音色を増やしているわけではないので。
竜馬はめっちゃ感覚派なんです。自分と栞汰は「こういう音を作るときは、この機材やエフェクターを使う」という知識を基にやってる感じなんだけど、竜馬はこちらが辿り着けない域にあるというか。
そうやな(笑)。
例えば、「ここは普通のジャズベースでいいんかな? 普通のシンセベースっぽい軽い音かな?」と思って弾いたら、「いや、ちょっと違う」みたいな。「もっと土っぽい感じで」みたいな抽象的な表現の仕方をするんです(笑)。竜馬のイメージに微妙に届かないこともあるんですけど、その差を埋めるのが難しくもあり、楽しくもあります。
――6月からはアルバム『Shepherd』を携えた全国ツアー『SHE’S Tour 2023 “Shepherd”』がスタートします。
ライブで演奏することで変化するところもあるんですよ。(2022年に配信リリースした)『Grow Old With Me』も最近ちょっとアレンジが変わって。
うん。ライブでやることで、初めて楽曲が完成する感覚もありますね。
ニューアルバム『Shepherd』発売中
※CD収録曲は全形態共通
※Blu-ray収録映像は完全数量限定盤、初回限定盤共通
※完全数量限定盤は、SHEʼS オフィシャルファンクラブ、UNIVERSAL MUSIC STORE のみ限定販売
《収録曲》
1. Dreamed (inst.)
2. Super Bloom
3. Boat on a Lake
4. Grow Old With Me 5. Blue Thermal
5. Blue Thermal
6. Happy Ending
7. Castle Town
8. Raided
9. Silence
10. Crescent Moon
11. Alchemist
《Blu-ray 収録内容》
「Sinfonia “Chronicle” #3」 at Osaka Festival Hall (2023.02.26) ※アンコール含むライブ全編フル収録
《Live CD 収録内容》
「Sinfonia “Chronicle” #3」at Osaka Festival Hall(2023.02.26) ※ライブ本編のみ全 19 曲収録
Live Information 『SHE’S Tour 2023 “Shepherd”』
2023年6月8日(木)京都 MUSE
open18:30 / start 19:00
問い合わせ:SOUND CREATOR 06‐6357‐4400
2023年6月10日(土)長野 CLUB JUNK BOX
open17:30 / start 18:00
問い合わせ:キョードー北陸025-245-5100
2023年6月11日(日)浜松 窓枠
open17:00 / start 17:30
問い合わせ:SUNDAY FOLK PROMOTION 054-284-9999
2023年6月17日(土)周南 RISING HALL
open17:30 / start 18:00
問い合わせ:夢番地 086-231-3531 <平日12:00~17:00>
2023年6月18日(日)岡山 CRAZY MAMA KINGDOM
open17:00 / start 17:30
問い合わせ:夢番地086-231-3531 <平日12:00~17:00>
2023年6月24日(土)鹿児島 CAPARVO HALL
open17:30 / start 18:00
問い合わせ:キョードー西日本 0570-09-2424(平日・土曜11:00-15:00)
2023年6月25日(日)熊本 B.9 V1
open17:00 / start 17:30
問い合わせ:キョードー西日本 0570-09-2424(平日・土曜11:00-15:00)
2023年7月1日(土)盛岡 CLUBCHANGE WAVE
open17:30 / start 18:00
問い合わせ:NorthRoadMusic 022-256-1000
2023年7月2日(日)山形 ミュージック昭和SESSION
open17:00 / start 17:30
問い合わせ:NorthRoadMusic 022-256-1000
2023年7月6日(木)横浜 F.A.D
open18:30 / start 19:00
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999
2023年7月8日(土)金沢 EIGHT HALL
open17:30 / start 18:00
問い合わせ:キョードー北陸 025-245-5100
2023年7月16日(日)旭川 CASINO DRIVE
open17:00 / start 17:30
問い合わせ:WESS info@wess.co.jp
2023年7月17日(月・祝)札幌 PENNY LANE24
open17:00 / start 17:30
問い合わせ:WESS info@wess.co.jp
<追加公演>
2023年10月8日(日)Zepp Fukuoka
open16:30 / start 17:30
問い合わせ:キョードー西日本 0570-09-2424(平日・土曜11:00-15:00)
2023年10月29日(日)Zepp Nagoya
open16:30 / start 17:30
SUNDAY FOLK PROMOTION 054-284-9999
2023年11月4日(土)高松 festhalle
open17:00 / start 18:00
DUKE 087-822-2520
2023年11月5日(日)広島 CLUB QUATTRO
open16:30 / start 17:30
YUMEBANCHI(広島) 082-249-3571 <平日12:00~17:00>
2023年11月8日(水)Zepp Haneda
open18:00 / start 19:00
HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999
2023年11月23日(木・祝)仙台 PIT
open16:30 / start 17:30
NorthRoadMusic 022-256-1000
2023年12月10日(日)Zepp Osaka Bayside
open16:30 / start 17:30
SOUND CREATOR 06-6357-4400
料金
1Fスタンディング ¥4,950(税込)
2F指定席:¥5,450(税込)※Zepp会場のみ
※ドリンク代別途(山形公演を除く)
※年齢制限:未就学児入場不可 小学生以上有料
特設サイト:https://eplus.jp/she-s
撮影/中田智章
取材・編集/ビッグ・バン・センチュリー