シンガーソングライター・藤原さくらにインタビュー!曲作りしたい人必見!楽器と作曲の始め方

 シンガーソングライターとして、さらには役者としても活躍する藤原さくら。彼女が『SUPERMARKET』以来、約2年半振りとなるフルアルバム『AIRPORT』をリリースする。既発曲5曲に、4月に配信リリースした1曲、斉藤和義との共作など新録6曲を加えた12曲が収録された本作は、前作に続きジャンルに捉われない幅広い表現を味わえる、ポジティブで風通しのいい作品に仕上がった。

 ライブやレコーディングで主にクラシックギターを扱う彼女はどのように今作の制作に向き合い、楽器とどのような関係性を築いているのだろうか。音楽人生のなかでの曲作りの変化や、愛用するギターについてじっくりと話を聞いた。

藤原さくら(ふじわら・さくら)
1995年12月30日生まれ。福岡県出身。父の影響で初めてギターを手にしたのが10歳。洋邦問わず多様な音楽に自然と親しむ幼少期を過ごす。高校進学後、オリジナル曲の制作をはじめ、少しずつ音楽活動を開始。地元・福岡のカフェ・レストランを中心としたライブ活動で、徐々に注目を集める。シンガーソングライターとしてのみならず、役者としても活動。天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。

「自分のギターが手に入った」という事実がすごくうれしかった

――10歳のとき、お父様からクラシックギターを譲り受けたことをきっかけに楽器を始めた藤原さんですが、それ以前は楽器にどのようなイメージを抱いていましたか?

藤原 「物心ついたころから当たり前のように家にあるもの」でしたね。父がベーシストなのですが、ベース以外にもフェンダーのジャズマスターなどのエレキギターを何本か持っていて、私はそれに特に興味を示さないままだったんです。でも父がバンドでクラシックギターを使うことになって、間に合わせで1万円くらいのものを買って。それを使い終わったあと、私にくれたんです。「娘に音楽をやらせたい」みたいな強い信念があったわけではなく、本当に軽い気持ちだったと思うんですけど。

――「家にあったもの」が「自分のもの」になった瞬間ですね。

藤原 それまで全然興味がなかったのに、「自分のギターが手に入った」ということがすごくうれしかったんです。周りにギターを弾いている子はいなかったし、弾けるようになったらめっちゃカッコいいじゃん! って。それで父に教えてもらいながら最初にカバーしたのがビートルズの『バースデイ』のギターリフです。その後に『ブラックバード』みたいな、もう少しむずかしい曲を弾くようになりました。

――それからしばらくはクラシックギターを使っていたのでしょうか?

藤原 クラシックギターもアコースティックギターも弾いていましたね。私がギターを始めたことを知った父の友人が、タカミネギターのアコギをくださったんです。そのときに「クラシックギターとアコースティックギターってこんなに違うんだ」と感じて。

――アコギに比べて、クラシックギターはネックが太いですものね。

藤原 そうなんですよ。やっぱり少し難しいんですよね。あと、ギターを始めてからアーティストのYUIさんに強い憧れを抱くようになったことも大きいです。YUIさんの曲をカバーしようにもクラシックギターはナイロン弦なので、ピックでコード弾きをするには音が広がりすぎちゃって。だからアコースティックギターやエレキギターも弾いていましたね。ほかにも当時流行っていたJ-POPをカバーしたり、小さな手帳に気に入ったフレーズを書き留めたりして。 

自分はどんなものを好きになるのかを具体的に分析した

――藤原さんがオリジナル曲を作り始めたのは高校生になってからだそうですね。ボーカルスクールに通い始めたことで、本格的にアーティストとしての道を歩み始めます。

藤原 YUIさんをきっかけに「シンガーソングライター」という存在を知りました。最初は、曲も作ったことがなければ右も左も分からない状態だったので、ボーカルスクールに通うことにしたんですが、そこで先生が作曲の手助けをしてくれたんです。先生が作ったAメロ、Bメロ、サビのコードに、自分でメロディと歌詞を乗せたことが、私の初めての曲作りでした。 

――用意されたコードにメロディをハメていくことが作詞作曲のトレーニングになっていた、と。

藤原 作曲の第一歩として、もともとある曲のコードに自分なりのメロディをつけてみるのはいいと思います。自分の頭だけで考えると手癖で同じ進行になってしまうことも多いので。私も曲を作り始めたてのころは同じような曲ばかりになってしまって、それで自分の好きな曲をもっと分析するようになったんです。 

――分析とは?

藤原 自分はどんな音楽を好きになるのかを、より具体的に考えるようになりました。当時は洋楽をよく聴いていたので、この曲にはどんな楽器が使われているのか、どういうコードが出てくるのか…みたいなことを紙に書いて「この構成を取り入れて作ってみたらどうなるかな?」と試したりしていましたね。たとえばアーティストの曲を聴いていて「もしかしてこのアーティストは、あのアーティストのことが好きなのかな?」と感じること、あるじゃないですか。 

――そうですね。

藤原 だから自分が好きな音楽、楽しい気持ちになる音楽をたくさん聴いていると、それがどんどん自分のなかに蓄積されていって、曲にしたときに自分という経験を通してその影響が出てくると思うんです。それがその人のカラーだと思うし、私も自分の好きな音楽をたくさん聴いてきたからこそ今があると感じますね。 

――現に藤原さんの音楽性は、デビュー当初と比較するとどんどん幅が広がっていると感じます。

藤原 前作の『SUPERMARKET』というアルバムでトラックメイカーのVaVaさんとご一緒して、トラック(録音されている音のパート)に私がメロディと歌詞を乗せるというヒップホップ的な作り方を初めてしたんです。今作の『AIRPORT』も、出来上がっているトラックにメロディを乗せたものが多くて。 

――今は共作の面白さが藤原さんの制作欲を突き動かしているところも?

藤原 そうですね。自分だけの力では辿り着けなかったところにいけるので、そこにすごく面白味を感じています。逆にアルバムに収録されている『放っとこうぜ』みたいに私がひとりで打ち込みでリズムを作り、そこに音を重ねていくような形でできた曲もあれば、『My Love』みたいにギターと歌だけの弾き語りをボイスメモで録って、リファレンス(参考音源)と一緒にプロデューサーに送った曲もあるし、『AIRPORT』に収録されている曲は色々な作り方をしていますね。 

ギターがあれば色々なステージに立つことができる

――藤原さんはライブでピアノやウクレレなど様々な楽器を演奏していますが、メインはクラシックギターですよね。それが定着するまでにはどのような経緯がありましたか?

藤原 きっかけは私の“ピック弾きをしているとピックを落としちゃう病”ですね(笑)。ギターのホールの中にピックが入っちゃったりして煩わしいから「もうピックを使うのはやめよう」と決めた瞬間があったんです。それに、もともと声を張って歌うタイプではなく地声と裏声が混じった吐息が多めのタイプなので、弦をつま弾くギターのほうが自分の声質にも合うと思ったのもあって。クラシックギターのナイロン弦は、アコギなどのスチール弦よりも柔らかく響いてくれますしね。あとはギターの原体験がクラシックギターだったのも大きいと思います。色々な要素が重なってクラシックギターに落ち着いたんですよね。 

――今の藤原さんにとって、弾き語りはどのような表現スタイルですか?

藤原 自分のコンディション次第で出来が変わるし、機動力が高いと思います。バンドと違って自分だけで完結するスタイルなので、去年から今年の4月まで行っていた弾き語りツアー(『藤原さくら 弾き語りツアー2022-2023 “heartbeat”』)でも臨機応変にセットリストを変えられたんです。ギターだけだとバンドでは行けない会場でもポンと行くことができるし、お客さんと自分を隔てるものもギターだけになるので、お互いをすごく近くに感じられるのも素敵だと感じていますね。 

――『AIRPORT』の収録曲も、クラシックギターが主軸になったサウンドデザインの楽曲は、藤原さんの内面に近い歌詞が多い印象がありました。今おっしゃっていただいたことは、言葉にも影響してくるのでしょうか。

藤原 『My Love』をはじめ、確かにパーソナルな面が出ていますよね。言われてみるとそんな気がしてきました(笑)。私はギターなしで歌うとなると、より緊張しちゃうんです。でもギターがあればたくさんのステージに立つことができる。今までギターと一緒に色んなステージに立たせてもらってきたからこそ、一緒に歌うと安心感があるんですよね。…そういえば一時期、メインの楽器にしているMartinの『000C Nylon』に名前を付けてました。 

――なんというお名前だったんですか?

藤原 確か「おさむ」だった気がします(笑)。でもふとしたタイミングからその名前は頭によぎらなくなりましたね。今、5年振りぐらいに口に出しました(笑)。

――藤原さんと音楽との関わり方が変わってきたタイミングなのかもしれませんね。

藤原 そうなのかな。確かにどんな音楽やっていてもライブではずっとあのギターを使ってきていたので、ここ5年くらいはより当たり前の存在であり、絶大な安心感のある相棒になってきたのかなと思います。

――『AIRPORT』はヒップホップ的なテイストの楽曲からアコースティック色の強い楽曲まであり、『SUPERMARKET』からの2年半の藤原さんのモードが出た作品になったのではないでしょうか。

藤原 自分がラジオ(interfm「HERE COMES THE MOON」https://www.interfm.co.jp/hctm)をやっているなかで様々な音楽に触れたり、音楽以外のお仕事もやらせていただいているのもあってか、つねにどんなものも幅広く楽しむタイプなので、『AIRPORT』はそのエッセンスが出たと思います。「出会いあれば別れあり」な歌詞も多いんですけど、それをすごく爽やかに表現できたことが自分としてはすごくうれしいんです。さらに素敵な場所へと飛び立とうとしているアルバムになったと思います。

――楽器を始めることも、新しい場所へと飛び立つことになりますよね。

藤原 もちろん! 誰かと一緒にいるときにおもむろに好きな曲を弾き出すとか、いいですよね。音楽が日常にあることはすごく素敵で幸せなことだと思っています。可愛いと感じる楽器を手に入れたら弾かずにはいられないし、自分の人生を色づける上で楽器を弾けたら絶対楽しいですから。あと、昔買った楽器がホコリをかぶっている人って結構多いと思うんです。

――確かに。「アコギが押し入れで眠っている」はよく聞くセリフです。

藤原 ずっと使わずにいた楽器って、拗ねちゃってる音がするんですよね。でもちゃんと弦を張り替えて磨いて弾いてあげると、またいい音が出るんです。1個1個ちゃんと大切に弾いてあげるのも大事なので、とにかく弾いてあげて欲しい。自分が使っていない楽器を友達に貸したりもしてますね。楽器はちゃんと応えてくれると思います。

Sakura Fujiwara’s Guitar

Martin『000C Nylon』
これは上京してすぐに買ったギター。それまでずっともらいもののギターばかり使っていたので、自分で稼いだお金でギターを買いたくて、楽器屋さんに行きました。エリック・クラプトンモデルやすごく弾きやすいものまで色々あったんですけど、弾き比べをするなかでビビッときたのがこのギターでした。弾いてみた感触がいちばん自分にしっくりきたんですよね。その楽器屋にあった唯一のナイロン弦だったのと、もともとMartinのギターが欲しいと思っていたこと、そのときにMartinが出しているのがこの1本だったこともあって「これしかない!」と思いました。それからずっとメインで使っています。47都道府県弾き語りツアーもこのギターと回って、2022年11月にリリースしたEP『まばたき』に収録のアコースティックバージョンで作った楽曲(『ラタムニカ』『わたしのLife』『ゆめのなか』『「かわいい」』)も、このギターで録った弾き語りです。

ニューアルバム『AIRPORT』発売中

初回限定盤(CD+Blu-ray)
VIZL-2188/5,100円
※すべて税込
通常盤(CD)
VICL-65820/3,600円
※すべて税込

《収録曲》

1.わたしのLife
2.いつか見た映画みたいに
3.Kirakira
4.迷宮飛行
5.Feel the funk
6.放っとこうぜ
7.君は天然色
8.Wonderful time
9.My Love
10.話そうよ
11.まばたき
12.mother

《初回限定盤 Blu-ray》

・藤原さくら『野外音楽会 2021』at 日比谷公園野外大音楽堂公演 2021.9.20

01 Waver 02 Just the way we are 03 Give me a break 04「かわいい」

・藤原さくら『弾き語りツアー 2022-2023 “heartbeat”』at 千葉・マザー牧場公演 2022.10.22

05 Super good 06 Walking on the clouds 07 うたっても 08 生活 09 まばたき

撮影/市川唯人

取材・編集/ビッグ・バン・センチュリー

この記事を書いた人

沖 さやこ

フリーランスライター。神奈川県横浜市生まれ。2009年に音楽系専門学校を卒業し、音楽ライターのアシスタントを務める。2010年5月より現職。主に音楽、漫画アニメ、ネットシーンなどカルチャー全般の取材・記事執筆を行う。