耳に残るメロディーに、思わず笑ってしまうフレーズ…歌ネタを得意とするお笑いコンビ アイロンヘッドの辻井 亮平さん。ずば抜けたギターテクニックや歌唱力、ユニークな作詞・作曲・アレンジ力で、人気アーティストからもその音楽センスを絶賛されています。そんな辻井さんの多彩なセンスを育てたこれまでの“音楽遍歴”をお伺いしました。
アイロンヘッド 辻井亮平
兵庫県神戸市出身。大阪NSC30期生、2008年結成のお笑いコンビ アイロンヘッドのメンバー。2014年NHK新人お笑い大賞にて大賞を受賞、歌ネタ王決定戦では4度決勝進出などの実績を持つ。コントをメインに漫才もこなし、歌ネタを得意とする。ヨシモト∞ホールの看板芸人「ムゲンダイレギュラー」として活動中。
バンド結成をきっかけにエレキギターを購入。弾けないけど、3ヶ月後には初ライブ!?
――辻井さんは色々な楽器が演奏できるとのことなので、今回は島村楽器新宿PePe店の店内を巡って楽器に触れながらお話をお伺いしていこうと思います。
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岩下
本日、ご案内させていただくギター売り場担当の岩下です。今まで島村楽器に足を運ばれたことはありますか?
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大宮や幕張など吉本の劇場近くにお店があるので、よく弦の張り替えやギターアクセサリーの調達で行かせてもらってます!でも、楽器の試奏とかはあまりしないですね。
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岩下
そうなんですね。では、今日は思う存分弾いてくださいね!
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岩下
早速ですが、この子は「Taylor」の2022年Summer NAMM SHOW限定モデルです。かなり貴重な木材を使っているエレアコなんですよ。ぜひ、触ってみてください。
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へぇ~めっちゃかっこいいっすね。…って、130万!?やば、緊張するわぁ。
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うわ!エレアコですけどめっちゃ軽いんすね。普段弾いているギターとは感覚が全然ちゃうなぁ…!音も軽快で、すごく弾きやすいです。これエレアコなんですか?
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岩下
エレアコです!アンプにつないで演奏していただけますが、生音も本当にきれいですよね。他にも珍しいエレアコだと、島村楽器のオリジナル国産ブランド「HISTORY」のこの1本。
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めっちゃ柔らかくて、滑らかな弾き心地!弦が跳ね返る感じが、すごく気持ちいい。
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岩下
同じ「HISTORY」でも仕様や音色が全然違うので、ぜひこの子も弾いてみてください。この子は、ピックを使って弾くのがおすすめ。
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うぉ~、すごい音が響く!かっけぇ!さっきのは柔らかい音だったけど、こっちはジャカジャカ弾きたくなる。全然ちゃうなぁ。
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岩下
辻井さんがネタで使われるとしたら、どちらを選ばれますか?
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僕はがなるように演奏するのが好きなので、このギターがいいですねぇ。
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岩下
確かに、この子は辻井さんの男らしい歌声にぴったりだと思います!
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岩下さん、さすがギター愛がすごいですね。さっきからギターを“この子”って呼んではりますもんね(笑)
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岩下
すみません、愛が強すぎて…(笑)
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そういえばさっきもそうやったんですけど、楽器屋の店員さんって試奏のときにチューニングしながらめっちゃ弾いてくれるじゃないですか?あれも愛ゆえのやつですか?
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岩下
たくさん音を聞いてもらった方がギターの良さが伝わりますし、状態をチェックする意味もありますね。あとは、単純に目立ちたい気持ちも…(笑)
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そうなんや!(笑)僕的には、真正面から向き合ってくれる感じがしてうれしいです。初めてギターを買いに行ったときの店員さんもようさん弾いてくれました。
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岩下
辻井さんが購入された初めてのギターはどこのブランドですか?
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「EDWARDS(エドワーズ)」のレスポールだった気がします。大学生のときに、ツレとバンドを組んで、弾けないのに3ヶ月後にライブの予定を入れちゃって(笑)焦って楽器屋さんに行き、衝動買い。
そのエレキでチャック・ベリーのジョニーB. グッドをひたすら練習しました。ちなみに、バンド名は「革ジャンズ」っていう(笑)
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岩下
激シブですね!(笑)同じモデルではないですが…久しぶりにEDWARDSのエレキ、触ってみませんか?
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いいんですか!久しぶりやな~。
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おぉ~やっぱかっこいいなぁ。
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岩下
辻井さんはアコギの印象が強かったので、初めて買ったのがエレキというのは意外でした。
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実は、アコギを買ったのって4年前ぐらいなんですよ。それまでは、劇場にあるボロボロの小道具を使ってました(笑)今はYAMAHA、Takamine、K.Yairi、Epiphoneの4本を持っていて、各劇場と自宅に置いていますね。
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岩下
持ち歩くのが大変ですもんね。ちなみに、劇場に置き分けている理由ってあるんですか?
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ありますよ!僕、客席を見てその日のネタを決めるんです。歌ネタがウケそうな年齢層だったら歌ネタをやるし、よく来てくれはるファンの方がいたら漫才にしてみたり。場所によって年齢やファン層が全然ちゃうから、歌ネタをやることが多い劇場に弾きやすいギターを置いているかな。
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岩下
そんな細やかな心遣いが!ファンの方もうれしいですね。ギターアクセサリーは持ち歩かれてますか?
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そうですね、カバンに常に入れてます。カポタストは貸してと言われることが多いので何種類か持っていて、デジタルチューナー、ピックは弾きやすくてお気に入りのアイテムをリピート買い。
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岩下
ピックを客席に投げるのとか憧れますよね。
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一度やってみたんですけど、客席から投げ返されたことがあります(笑)
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岩下
お客様もお笑いが分かってらっしゃる!このカポタスト、もしかして島村楽器で買っていただいたものですか?
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そうかもしれません!今もいいカポを探し中です。
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岩下
それなら、僕が愛用しているいい子を後でご案内しますよ~!
練習が辛く、ピアノを挫折した幼少期。ピアニストの父親が羨ましかった
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岩下
せっかくなので、ギター以外で気になる楽器を触ってみませんか?
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それはめっちゃうれしい!これなんやろ?ギターの形をしたキーボード…?
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岩下
ショルダーキーボードという、仕組みはキーボードですが、左手側がコントローラーになっていて、グリップで音を変えられるシンセサイザーです。
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うわっ、なんやこれ!めっちゃおもろい!確かに弾いてる感じはキーボードやけど、グリップで音が変わるからギターっぽさもある。新しい道が開けそうや(笑)
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岩下
ぜひネタに取り入れてみてください(笑)辻井さんは鍵盤も弾けるんですね。
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じつは親父がピアニストで、子どもの頃からピアノを習っていたんです。練習がしんどくて、中学生でやめてしまいましたが…
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岩下
お父さんが厳しかったとか?
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その逆です!親父は我流でピアノを覚えた人やから、五線譜に1つずつしか音符が並んでいないんです。要するに主旋律だけ作って、あとは全部アレンジやったんでしょうね。だから「お前にピアノは教えられない」って、かなりの放任主義で(笑)
僕は、ピアノ教室で渡された曲を毎週のように覚えなあかんくて。めっちゃしんどかったし、親父の楽譜が羨ましかった。大人になって、自由に弾けるようになってからはピアノを楽しいと思えたけど、ギターもストイックにやっていたらすぐやめてたかもしれへんなぁ。
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管楽器も気になるな~。子どもの頃、じいちゃんが吹くトランペットの音色をよく聴いてました。
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岩下
おじいさまも楽器をやられてたんですね!3世代でセッションとかされないんですか?
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したことないっすけど、確かにそんなんしたら面白かったやろな(笑)
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うわぁ~やっぱりかっこいいなぁ。そしてむずい(笑)。どうやって空気を出したらええんや…
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岩下
すごい!少し練習しただけで音が出てますよ。やっぱり音楽の才能がありますね…!
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そんなことはないですけど、吹けるようになったらめっちゃ楽しいやろうなぁ。
弾けなくても、楽しいと思うこと、やりたいことをやってみる!
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――ここからは、辻井さんの音楽の歴史を深掘りしていこうと思います。幼少期から音楽に触れていて、大学時代のバンド活動で本格的にギターをスタート…ミュージシャンを志したことは?
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なかったすね~。子どもの頃から、なんとなく将来は芸人になるんやろなぁと思ってて。学園祭で漫才をしてみたり、人を笑わせるのが好きだったんですよ。それで大学卒業後、大阪NSCに入学しました。
最初、歌ネタはやっていなかったんですけど、芸歴3~4年目で「楽器が弾けるなら」とネタにギターを取り入れてみたら、めっちゃウケて(笑)そこから歌ネタ王決定戦という賞レースに出場して、音楽系の仕事をもらえるようになって…必然的に歌ネタが増えていった感じです。
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――そうだったんですね。アーティストからも技術や音楽センスを賞賛されたりと、大学時代のバンドでかなり練習されたのではないですか?
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いえいえ!全然そんなんじゃないです。幼少期、ピアノの練習が楽しくなかったことにトラウマがあって。楽譜を覚えるのは作業的になってやめてしまいそうやったんで、とにかく何回も音楽を聴いて、弾けるまで音を出し続けて…独学で覚えてます。
なので、基本的な知識とかは全然ないんすよね。知らず知らずに覚えた弾き方が、じつはちゃんとしたテクニックだったって感じ。コロナ禍で色んなギター動画を観るようになって、「これってそんなテクニックやったんや!」ってあとから答え合わせしてる感覚ですね(笑)
――それはすごい。今も練習はされてますか?
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練習というよりも、ネタを作っていく中で「これができたらええなぁ」と思って、できるようになっていくことが多いです。根底に、楽しんでギターを弾きたいという気持ちがあるんでしょうね。
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――ということは、ネタ作りは歌詞が先行?
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その通りです。まずは歌詞を考えて、それに合わせて曲を作っていく。その中で「1小節分メロディーを長くせなあかん。なんか面白いのないかなぁ」と試行錯誤しながら完成させていく…を繰り返していたら、自然と技術も上がっていきました。
曲を先に作ると合わせることに囚われすぎて、いい歌詞が思い浮かばへんというか。メロディーも大切ですけど、やっぱり1番はお客さんに笑ってもらえるフレーズやネタであることなので。
――バンドとお笑いでやっていることは違いますが、“思いのままチャレンジする”ギターへの接し方は「革ジャンズ」時代からあまり変わっていないんですね。
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テクニックを付けるための練習も大事だとは思うんですけど、やっぱり楽しくないと続かない。僕はピアノでその辛さを経験していたから、技術を付けようとするのではなく、やりたいことをできるようにするというのは今も意識しているし、それが合っているんでしょうね。
――なるほど…楽器を始めるときって、多少なりとも「続けられるかな」っていう不安がありますよね。でも、辻井さんの言葉に勇気づけられる方がたくさんいると思います。ピアノやギターの他に、ドラムも叩けるんですよね?本当に幅が広い!
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ドラムは、高校生の頃に叩けるようになりました。授業中に好きなバンドの曲を聴きながら、ドラムってどうやって叩くんやろーって手足を動かしてみたんです。そしたら、バラバラに動かさなきゃいけない難しさにびっくりして。
そこから、授業中ひたすらパタパタとエアドラムをする日々(笑)だんだん動けるようになって、スタジオに入ってみたら叩けてました。
――エアドラムで叩けるようになったんですか!すごい。ドラムって、楽器がないと練習できないという固定観念がありました。
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ドラムの方が、意外とどこでも練習できますよ。たまに芸人にも教えて~って言われる楽器のひとつです。
M-1ラストイヤーに向けて、ファンの支援を無駄にしないネタ作りを
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――アイロンヘッドは、今度単独ライブがあるんですよね。
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そうなんです。2023年6月3日(土)に「間に合え衣装!がんばれ!アイロンヘッド!」という単独ライブをやらせてもらいます。クラウドファンディングで皆様からいただいた支援で新衣装を作って、それをお披露目する公演なんです。
僕らは今年でM-1ラストイヤーなので、かなり気合いの入った単独です。M-1に向けてネタを突き詰めるため、歌ネタは封印して漫才だけ!
新衣装は、支援してくださった方への感謝の気持ちを込めて工夫してますし、M-1の予選でも着させてもらいます。
――本当にファンの方を大切にされてますよね。
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この考えになったのも、クラファンのおかげなんですよ。支援してもらうありがたさと共に「がんばらなきゃ」という責任感が生まれて。今までは、ウケたネタの内容を変えずに繰り返しやる…という感じやったんですけど、クラファンを始めてからは、同じネタでも必ずボケを変えるようにしてます。
そうすることで新しい笑いに出合えたりもするし、ネタがブラッシュアップされる。今回の単独では5本ぐらい新ネタを披露する予定ですが、M-1に向けて皆さんの支援を無駄にしないよう気合いが入ってます!歌ネタも劇場で披露していますので、気軽に足を運んでくださいね~!
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できなくてもいい、とにかくチャレンジ!楽しさの後に技術は付いてくる
幼少期から音楽や楽器に触れていた辻井さん。エリート教育を受けていたのかな?と思いきや、ギターやドラムは独学で習得されたことに驚きました。弾けなくてもいいから、好きな曲を練習したり、とにかくやりたいことをやってみるのがおすすめと話す辻井さん。今後のネタにどんな音楽が練り込まれていくのか、目が離せません!
アイロンヘッドセカンド衣装お披露目単独公演「間に合え衣装!がんばれ!アイロンヘッド!」
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日時:2023年6月3日(土)
18:40開場 19:00開演 20:00終演予定
会場:東京・ヨシモト∞ホール
料金:前売2500円/当日3000円(全席指定)/配信1500円
一般発売:4月1日(土)10:00~ 一般発売
チケット販売:FANYチケット(会場)、FANY Online Ticket(配信)
クラウドファンディング概要
【「間に合え衣装!がんばれ!アイロンヘッド!」のクラウドファンディング!】
開始日:2023年4月1日(土)
クラウドファンディング:FANYコミュ
撮影/寺田拓真
文・取材・構成/vivace