関西発5人組ロックバンド・キュウソネコカミのニューアルバム『私飽きぬ私』は、自分自身へのエールとメッセージを込めた10曲を収録。メンバーを代表して、ヴォーカル&ギターのヤマサキセイヤ、ギターのオカザワカズマにそれぞれのギター遍歴、アレンジの方法、アルバム『私飽きぬ私』、そして、バンドに対する愛着やこだわりについて聞いた。
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2009年に関西学院大学の軽音楽部に所属していたメンバーを中心に結成されたロックバンド。2010年より関西でライブ活動を開始し、メンバー変遷を経て、ヴォーカル&ギターのヤマサキセイヤ、ギターのオカザワカズマ、ベースのカワクボタクロウ、キーボード&ヴォーカルのヨコタシンノスケ、ドラムのソゴウタイスケの5人で活動。今後、全国ワンマンツアー『DMCC REAL ONEMAN 2023 ~ほぼ週末ツアー~』を5月21日から福岡 DRUM LOGOSほかで開催。『JAPAN JAM 2023』(4月30日/千葉市蘇我スポーツ公園)、『VIVA LA ROCK 2023』(5月3日/さいたまスーパーアリーナ)、『METROCK2023』(大阪:5月13日/堺市海とふれあい広場、東京:5月20日/新木場若洲公園)などのフェスにも参加予定。
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1987年4月17日生まれ。和歌山県出身。ヴォーカル&ギター担当。
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1988年6月28日生まれ。兵庫県出身。ギター担当。
Arctic Monkeysを聴いて、初めてギターの音が理解できた
――ギターを弾き始めたきっかけは?
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「高校受験に受かったら、アコースティックギターを買ってあげる」っておばあちゃんが言ってくれたんですよ。
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アコギでRage Against the Machineの曲、弾いてたんやろ?
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(笑)。高校の同級生が、昼休みに音楽室でRage Against the MachineとかL’Arc-en-Cielの曲をクラシックギターで弾いてたんですよ。そいつに洋楽とかも教えてもらって。そっからですね、ギターをちゃんとやってみようと思ったのは。
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僕は大学に入ってからエレキギターを買いました。コピーバンドをやりたかったんだけど、すぐ挫折して(笑)。そっからは「ヴォーカルでええわ!」ってなりました。またギターを弾き始めたのは、イギリスのロックバンド、Arctic Monkeysがきっかけですね。彼らの曲を聴いて初めてギターの音が理解できた感じがあって、「これなら俺も弾けるかも」と思って。
――キュウソネコカミはもともと、ギターバンドから始まったとか。
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そうですね。最初はギターバンドだったんですけど、その後、シンセサイザーを入れたくなって、キーボードのヨコタシンノスケが加入したんです。ヨコタは音楽に精通しているので、アレンジとかも彼を中心にやることが多いですね。僕が弾き語りでデモ音源を作って、それをみんなに聴かせて、スタジオで音を出しながらアレンジして。それを2年くらい前までやってました。最近やっとパソコンを取り入れたんですよ。そのおかげで自分がやりたいことが前より伝わるようになったし、レコーディング当日に揉めないようになって。前はよく揉めてたよな(笑)。
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(笑)。もちろんプリプロ(レコーディング前の準備作業)もやってたんですけど、余白が残ってるというか、はっきり決まってない部分もあって。レコーディング当日になってフレーズを変えてくるメンバーもいて、「え、だったらギターも変えないと」ということもあったり。
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今はパソコンでしっかりアレンジを決めてから録ってるので、かなりスムーズです(笑)。
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自分はその場の瞬発力でフレーズを決めるというより、周りの音を聴いて、じっくり考えたいところがあって。今は自宅で時間を掛けてフレーズを作れるし、そこもいいところだと思います。
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ギターサウンドも魅力のニューアルバム『私飽きぬ私』
――ニューアルバム『私飽きぬ私』にも、ギターが際立っている曲がいくつもあって。まずは『You don’t know her.』。かなりヘヴィなギターですよね。
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“ドロップDチューニング”(音をヘヴィにするために、通常のチューニングから1音下げたDの音にするチューニング法)ですね。この曲のギターは、THE MAD CAPSULE MARKETSやRIZE、後輩バンドのSPARK!!SOUND!!SHOW!!みたいな感じとか、洋楽の雰囲気もちょっと入れたくて。ギターリフ(曲の中で繰り返し演奏される印象的なフレーズ)をお客さんが歌う文化が日本にはないので、そういう曲になったらいいなというのもありました。
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自分の中の“Rage Against the Machine好き”がちょっとだけ出てる曲かもしれないですね(笑)。イントロでフランジャー(エフェクター)使ってるのもそうだし。まあ、勝手な趣味ですけど(笑)。
――『真理』もギターが目立ってますね。
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いいですよね。『真理』のオカザワのギターソロ、最高です。
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いえいえ(笑)。ギターリフはセイヤさん発信なんで。
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リフは曲を作ったときのイメージもあるので、「これを弾いて欲しい」ということもあるんですよ。ソロに関しては自由に弾いてもらうことが多いです。この曲のソロ、結構考えた?
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色々試しましたね。最終的にはその場でパッと弾いたような感じになってますけど、考えた結果、シンプルで王道系のフレーズになったというか。
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カッコいいよね。このギターソロ、夜明けを感じるんですよ。じつは『真理』は、“あるマンガの主題歌を勝手に作る”というテーマで制作したんですけど、そのマンガの最終回に夜明けのシーンがあって。そのイメージも合ってるなって。
――そして『いけしゃあしゃあ』はヤマサキさん、オカザワさんのギターの掛け合いが聴きどころになっていて。
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オカザワに「この曲のギターはセイヤさんに任せました」と言われて。そういうこと、久しぶりじゃなかった?
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そうですね。
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しかも僕のパートがめっちゃムズいんですよ。「ここ、結構弾きまくってるな」というフレーズはほぼ全部、僕が弾いてます。家で弾いたやつを「弾けた!」ってメンバーに送ったら、「どこが弾けてんねん!」って言われて(笑)。オカザワに「セイヤさん、多分こうやって弾いたほうがいいと思います」という直しが送られてきたから、レコーディングではそれをコピーしました(笑)。
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ははは! 『いけしゃあしゃあ』は16分のカッティングも重要だと思ってて。僕はそっちを弾きたくなっちゃったんですよね(笑)。休符が入ったフレーズもあるので、歌いながら弾くのは難しいのかなと。
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なるほど。まあ、どっちにしても歌いながら弾くのは大変なんだけど。
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あと、フジファブリックの影響もあると思います。『銀河』という曲の中でギターの掛け合いがあって、それがすごくカッコいいんですよ。あの感じを自分たちでもやってみたいと思っていたし、「いけしゃあしゃあ」のデモを聴いたときに、「この曲だったらやれるんじゃないかな」と。
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バンドの瞬間的なカッコ良さにずっと惚れてる
――『私飽きぬ私』は、“自分に対するエール”というアルバムのテーマを象徴する楽曲ですね。
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『私飽きぬ私』はこの3年間、コロナ禍で感じた気持ちが全部詰まってる曲だなと思ってます。この数年、新しい曲をライブのセットリストに定着させるのがすごく難しかったんですよ。コロナの影響で以前のような盛り上げ方ができなかったし、どんだけ楽しい曲を作っても、手拍子と無言で笑うくらいしかコミュニケーションが取れなくて。何度かライブで演奏しても、結局セットリストから落ちることが続いてたんです。でも、『私飽きぬ私』はそれを超えて、これから先ずっと演奏していける曲になったなと。
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そうですね。
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この曲を作ったとき、本当に不安だったんです。コロナもそうだし、ベースのカワクボタクロウの調子が良くなくて、ライブ活動を休止したり。バンドとしても「活動休止するか、4人で活動を続けるか」みたいな局面もあったんですよ。そんな時に応援ソングを聴いても「いやいや、そんな前向きなこと言われてもどうもならんわ」と思ってしまって。『私飽きぬ私』は“「不安だ!」って叫んで、不安をぶっ飛ばしたい”というという気持ちがめっちゃ入ってて、自分としてもすごく気に入ってますね。
――バンドを続けていると色々な困難にぶち当たることもあると思います。それでもバンドを選んでいるのはどうしてですか?
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やっぱりバンドでしか出せない、その瞬間のカッコ良さみたいなものがあるんですよね。それにずっと惚れてるんですよ。確かにバンドってコスパが良くないし(笑)、今はTikTokなどでサビだけ聴ければいいという時代だけど、ライブハウスに足を運んで、バンドマンの生き様ごと音楽を感じてもらうような楽しみ方を伝えていきたくて。最近、(ライブ会場で)声が出せるようになってるじゃないですか。みんな目がキラキラしていて、「全身で楽しみたい」という感じがお客さんから伝わってくるんです。そういう姿を見てると、涙が出てくるんですよね。
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僕は最初、会社員をやりながらバンドに参加していたんです。でも、あるときに「やっぱりバンドをしっかりやりたい」と思って、会社を辞めちゃったんですよ。コロナになってからはすごく大変でしたけど、その中でバンドの楽しさを改めて実感できたし、キュウソネコカミはやめたくないなって強く思うようになって。…普段、あんまりこういうことは言わないですけど(笑)、そういう瞬間は何度かありました。
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爆発するような瞬間が絶対にあるからね。それはやっぱりバンドの魅力だと思います。
――なるほど。では、これから楽器をやりたい、バンドをやりたいと思っている人に向けてメッセージをいただけますか?
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やっぱり最初は好きな曲を演奏してみるのがいいと思います。最初から完璧を求め過ぎず、とりあえず好きなフレーズとかを弾いて。「もっと上手くなりたい」と思えばハマっていくんじゃないかなと。自分は最初から難しいことをやろうとして、「無理だ!」って諦めちゃった人間なので(笑)。
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僕も、楽しくやるのがいちばん大事やなって思いますね。
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うん。最初は指も痛くなるし、楽しくないと練習も続かないので。今は曲をコピーしてSNSにアップしたら、見た人から評価をもらえるじゃないですか。そういうこともやってみたらモチベーションにつながりそう。
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確かに。あと“曲のコピーと曲作りは全く別”っていうのも知っておいたほうがいいかも。簡単でカッコいいフレーズってあるじゃないですか。「こんなん余裕で弾けるやん」って思うんだけど、自分で作り始めると、その簡単なフレーズがめっちゃ考えて作られてることが分かってくるんです。そういうことも意識しながら弾くといいんじゃないかなと思います。
ヤマサキ&オカザワが使用しているギターを紹介!
- Yamasaki’s Guitar
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購入したのは2018年くらいで、もう5年使ってます。すごく馴染みが良くて、ライブのメインは完全にコレですね。ライブ会場によって大きさや音響、アンプやPA(音響装置)の状況がだいぶ違うんですけど、こいつだったら大丈夫という安心感があって。リハの時間がないときもそうだし、何ならコレしか持って行かないときもあります(笑)。そんなに本数を持っているほうではないんだけど、色は全部“赤”ですね。色んなブランドのギターを渡り歩いているんだけど、昔からずっと赤。赤が好きやし、違う色のギターが欲しいと思ったこともないので、これからも赤で通します!
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神戸でライブがあった日に、スマホでギターを探してて。近くの店にあるやん! って思って、すぐに店に直行して買ったギターです(笑)。ジミヘン・モデルというか、ペグ(ヘッドにあるチューニングを合わせる部分)が下向きについてたり、とにかく見た目が良くて。音もめっちゃカッコいいんですよ。暴れん坊というか(笑)、すごく攻撃的な音で。キュウソの曲でいうと、『ビビった』とかにぴったり合うんですよね。セッティングに時間が掛かることもあるし、会場によってはうまくハマらないこともあるんだけど、その分、バチッと合ったときは最高。ギャンギャン鳴らすとテンション上がります。
- Okazawa’s Guitar
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尼崎にあるギター工房Sago New Material Guitarsに作ってもらったオリジナルのギターですね。たまたまリペアに持っていったら、自分のことを知ってくれてて、「一緒にギター作りませんか?」と言ってもらって。ピックアップセレクター(注1)が2つ付いていて、フロント(注2)とリア(注3)を両方鳴らすこともできるし、リアのハムバッカー(注4)だけにすることもできて。設定で色々変えられるので、すごく対応力があるんですよね。もう7年くらい使ってますけど、今はこれがメインのギターです。あと、キルスイッチ(注5)も付けてるんですけど、これは完全にトム・モレロ(Rage Against the Machine/AUDIOSLAVE)の真似ですね(笑)。
注1 ピックアップセレクター:ピックアップは、ギターボディの弦の真下についてる装置で、振動を電気に変えて音を鳴らす。ピックアップセレクターは、どのピックアップを鳴らすか選ぶためのスイッチ。
注2 フロント:本体を立てたときに上部にあるピックアップ
注3 リア:本体を立てたときに下部にあるピックアップ
注4 ハムバッカー:不要なノイズを取り除くピックアップ
注5 キルスイッチ:ボリュームを瞬時に0にできるスイッチ
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1990年代のレスポール・クラシック。音に厚みがあるギターが欲しくて、昨年、導入しました。そんなに使う機会がないんですけど(笑)、メインのギターとは全く音のキャラが違うので、基本、この2本で使い分けるようにしています。
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オカザワ 2018年に大阪、東京のNHKホールでライブをやったときに、Sagoで作ってもらいました。たまたまテレビで“ドラえもんギター”を見て、これをキュウソでやったら面白いと勝手に思って(笑)。スイッチを押すとネズミの目が赤く光ったり、ヘッドがチーズのデザインになってたり、Sagoの方もノリノリでやってくれました。
ヤマサキ 遊びで作ったおもちゃみたいに見えるかもしれないけど、音もいいんですよ。ギターとしてもちゃんとしてます! というのは言っておきたいです(笑)。
ニューアルバム『私飽きぬ私』 発売中
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初回限定盤A(CD+Blu-ray)VIZL-2167/5,940円 初回限定盤B(CD+DVD)VIZL-2168/5,390円 通常盤(CD)VICL-65792/2,750円 ※すべて税込
《収録曲》
- 優勝(ALBUM Mix)
- You don’t know her.
- 住環境
- スプラッタ
- 真理
- いけしゃあしゃあ
- Tくん
- ひと言
- モノバショクセニイマモイキル
- 私飽きぬ私
《初回限定盤 収録映像》ヤマサキ セイヤ地元凱旋!!初の和歌山城ホール ワンマンライブをボリュームたっぷりに収録したBlu-ray、DVDを付属!!(2023年1月14日 “ONEMAN LIVE~和歌山の城ホール~”@和歌山城ホール)
撮影/木村直軌
取材・編集/ビッグ・バン・センチュリー