メジャーデビュー5周年を迎えたシンガーソングライターのビッケブランカが、10月28日(金)に公開されるフランス映画『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』の全世界共通エンディング曲を担当。本作のために書き下ろした楽曲『Changes』は、“変化”をテーマにしたピアノバラードだ。
そこで今回は、ピアノもギターもすべて独学の耳コピで習得し、つねに変化し続けることを楽しんでいる彼に、音楽とともに歩んできた人生を振り返ってもらいながら、楽器を始めた経緯やその原動力について聞いた。
ビッケブランカ
愛知県出身。シンガーソングライター。2018年リリースのアルバム『wizard』に収録の『まっしろ』がドラマの挿入歌として話題を呼び、iTunes 総合アルバムチャートで2位を記録。2019年には、『Spotify』のTVCM曲に『Ca Va?』が起用され、同曲を収めた2020年発売の3rdアルバム『Devil』はiTunes J-POP チャートで1位を獲得する。音楽ストリーミングサービスにて全楽曲総再生回数は4億超え。3月にはメジャーデビュー5周年記念ベストアルバム『BEST ALBUM SUPERVILLAIN』をリリース。現在、自身最大規模の全国ツアー『THE TOUR「Vicke Blanka」』が開催中。10月30日には、スペシャルイベント第1弾『Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD -軌-』も行われる。
変化を恐れずにずっと変わっていきたい
――まず、フランス映画である本作の全世界共通エンディング曲のオファーを受けた際の心境から聞かせてください。
ビッケブランカ 僕はフランス自体が好きで、フランス語の歌も作っているくらいなので、うれしかったですね。
――楽曲制作はどんなところから進めていきましたか?
ビッケブランカ セドリック・ル・ギャロ監督とマキシム・ゴヴァール監督のお二人と話させてもらったんですけど、「俺たちはこんなことを言いたい。それに対して、お前が思うことを歌ってくれたらそれでいい」と言ってもらって。だから、監督たちのメッセージを受けて、僕の思うことを言葉に変えたっていう感じですね。意外と素直に作っていきました。
――監督のメッセージというのは具体的には?
ビッケブランカ 僕もそこで内容を完璧に理解できたわけじゃないんですけど、“何かを変えたいし、今、変えられそうなんだよ”っていうような希望が見えて。それを一言でいうと、“人が変わる”ことかなと感じたので、『Changes』という曲にしました。誰だって変わりたいと思ってるし、僕だって変わりたい。変わるべきものもあるし、変えるべきものもある。変化していくことを恐れずに、変化して欲しいと願うこと。歌の中では自分ひとりがいい人間になりたいみたいなメッセージもあるんですけど、個だけじゃなくて、個人と社会の両方とも変わるという意味で、『Changes』っていう複数形になってるんです。
――ビッケブランカさん自身も変わりたいと願ってるんですね。
ビッケブランカ 変わっていくほうが楽しいかなと思うし、変化は恐れないようにはしてますね。
――メジャーデビュー5周年でベストアルバムを出したという節目のタイミングとは関係してますか?
ビッケブランカ ああ~。今、言われて思いましたけど、関係してるかもしれないですね。色んなことをやってきた5年間があって、その中でも常に変化し続けていて。これからも同じように形なくやっていけたらいいなっていうふうには思ったかもしれないです。
――逆に、この5年間で変わってないことは何かありますか。
ビッケブランカ 変わってないことはないような気がします。正直、あまり変わる・変わらないについて特に意識はしていなかったけど、関わっていく周りの人間たちの影響をちゃんと受けて、時間が過ぎるままに自然に変わっているんだろうなと。僕はずっと変わっていきたいんですよ。変わっていきたいというか、ほっといたら変わっていくから、その変化を止められるのは、人生においてストレスになる。今、5年前を振り返って見ると、全然違う! みたいな感じですね。それは、後から気付けばいいことなのかなと思いますけど、“変わりたくない”よりは“変わりたい”のほうがいいと思う。
――どうしてですか?
ビッケブランカ 変わりたくない時って、凝り固まって、周りが見えなくなってる時だから。自分が変わったと思うのか、変わらされたと思うのかも、その人の心の状態次第なのかなと。でも、色んな人間がいるから、そんなことの繰り返しだと思うんですね。変わることはしょうがない。それをどう捉えて消化していくか。どこまで楽観的に思えるかが勝負だと思います。そういう意味で、この曲は『Unchange』や『Don’t Change』ではなく、『Changes』っていうタイトルになったんだと思う。やっぱり変化していくほうが前に進んでいる感じがするから。
ライブの相棒になってるピアノを始めたのは22歳の時
――変化し続ける姿勢がある種のビッケブランカらしさになっていますよね。ちなみに独学でピアノを始められていますが、始めたことで何か人生は変化しましたか?
ビッケブランカ ピアノを始めたのは、僕、22歳とかなんですよ。でも、変わったと思いますね。曲を作ることができるようなったし、ライブで楽器の相棒もできたし。
――家にあったピアノを小さい頃から弾いていたんですよね?
ビッケブランカ 実家にあったのは妹しか弾いてないんですよ。僕は習っていないので、ただピアノで遊んで曲を作っていただけで。親しんでいた楽器ではあったんですけど、それを相棒と言えるか、ここからキャリアが始まったと言えるかっていうと、子供の頃はほかに虫取りもしてたし、ドッジボールもしてたし。“ピアノが俺の相棒だ”って思うようになったのは21、22歳の時。それまではエレキギターとフォークギターを弾いていて。
――そうだったんですね。ギターを始めたのは?
ビッケブランカ 小学校1年生の時とか、指がすべての弦にとどかないうちからやってましたね。親父がイルカや伊勢 正三を弾きながら歌ってて。親父の真似をしたいから始めたという感じでした。あと、母親が洋楽好きで、ABBAやベイ・シティ・ローラーズ、カーペンターズとかを聴かせてくれてました。つねに音楽が身近にあったし、子供ながらに音楽っていいなと思ってたから、そのままの道の上にいまだにいる感じですよね。
音楽をやりたい、音楽が好きだと思える時点で、才能のある、将来性のある人間だと思う
――ギターを始めたことで人生は…。
ビッケブランカ 変わった(笑)。それ以外の答えはないですよね。でも、本当に変わると思います。やる、やらないでは全然違うし、音楽をやりたいとか音楽を聞いて楽しく感じるっていう時点で、もうその人は才能があると僕は思うんですよ。音楽に興味がない人って本当に全く興味がない。音楽がいいと思える時点で、スタート地点から才能のある、将来性のある人間だと思うので、そこをどう伸ばしていけるかだと思います。
――ギターはお父さんから習ったんですか?
ビッケブランカ 僕は何も習ったことはないんです。集中するとそこから抜け出せなくなるので、学校から帰ってきたら、すぐに弾き出して、ずっと弾いてるみたいなタイプでした。おかげで手に技がついて良かったです。
――小学生から22歳までギターをやっていて、そこからピアノに挑戦し始めたわけですね。
ビッケブランカ そうですね。まず中学生になって、RISEやDragon Ash、リンプ・ビズキットやリンキン・パークといったミクスチャー(様々なジャンルの音楽の要素を取り入れたロックミュージック)が流行った時にアコギからエレキに変わって。でも22歳の時に、自分の見た目的にギターは似合わないな、 なんか違うなと思い、昔ピアノで遊んでいたことを思い出して始めてみたんです。ピアノも習ったことはないから、たとえばベン・フォールズを聴いて、「この音とこの音とこの音が鳴ってるな。この形(3本の指でコードを抑えるポーズ)か!」っていうのを繰り返して。楽譜も読めないから、ずっと耳コピをしてたんです。ト音記号とヘ音記号があって、ヘ音記号の方が好きってことしかわからない(笑)。
――あははは(笑)。
ビッケブランカ 最初に始めた時は、まず実家に調律もされてないピアノがずっとあったから、それを親父に頼んで運んでもらって。5階建てのマンションの地下1階に住んでたんですけど、そこにアップライトピアノを入れてずっと弾いてました。1階がダイビングスクールの事務所で、22時以降は人がいなかったんですよ。しかも、隣が空き部屋だったので深夜は弾き放題。とにかく楽しかったですね。
――最初はどんな曲を弾いてたんですか?
ビッケブランカ ビリー・ジョエル、エルトン・ジョン、ボズ・スキャッグズを弾きながら歌ってたんですけどバラードばかりだったから、その後にベン・フォールズに傾倒し、ピアノをロックっぽく、リズミックに弾くようになりました。
――楽譜が全然読めなくてギターやピアノを諦めちゃう人も多いと思うんですが、耳コピのみの独学で心が折れたりしませんでしたか。
ビッケブランカ 折れることはなかったかな。自分の人生を辿ると、結局は教育だと思うんですよね。うちの親は、「人間っていうのは一人ひとりが他の誰よりも圧倒的に得意なことがひとつあるから、それを見つけて、それを伸ばして、それで生きていくんだよ」っていう教育をしていて。自分はそれが小学校の6年間で十分わかった。運動も勉強も誰より1番できたわけじゃなくて、いつも2、3番くらいだった。ま、賢いけどね(笑)!
――(笑)。2、3番でもすごいです。
ビッケブランカ あはははは。でも音楽だけはずば抜けてたって自覚できてて。歌への理解度とか、単純に歌のうまさとか、声の大きさとか。それを自分で見つけたから、そこで人生がある程度ロックされてて。
――そうなんですね。
ビッケブランカ 音楽をやめたら、自分にはもう何もないってことがわかっていたから、折れようがなかった感じです。普段、「息するのやめたら俺は死んじゃうから頑張って息しなきゃ」と思わないのと一緒で、音楽をやってることが当たり前すぎるっていう状況でした。でもどっちにせよ、ピアノで耳コピすることが楽しかったから。だから、苦じゃなかったんですよね。
――最初の「自分が変わったのか」「他人に変えさせられたのか」と同じで、できない時に、それを楽しいと感じるか、苦しいと感じるのかの違いですよね。
ビッケブランカ そう。でも、そういう人はきっとほかにやれることがまだあるから、やめるっていう選択肢も出てくるんだと思う。それしかないってことが当たり前に沁みついちゃってると、ブレようがないんですよね。楽な気持ちで、違うと思ったら何か別のものを見つければいいのかなと思います。
――楽器も色々やってみて楽しいと思えるものが見つかるかもしれないですしね。ギターが似合わないから、ピアノを始めたように。
ビッケブランカ うん。そうなったからこそ僕も今がありますし、現在はギターも弾いてますからね。そういう柔軟性はあっていいと思うんですけど、そのひとつ前ですよね。自分にはどんな才覚があるのかをちゃんと吟味することのほうが大事な気がします。僕はたまたま気付くのが早かったですけど、それはいつからだってできると思います。
――Happy Jamの読者も『Changes』をピアノで弾き語りできる?
ビッケブランカ できると思います。フランスの若者が聴くおしゃれラップのようなビートを刻んでるし、祈りや教会といったゴスペル的な要素もあるけど、ピアノはバラードなんですよ。自分の中でリズムを感じながら、バラードのようなピアノを弾く。この記事を読んでる人はきっとできると思う。音楽の才能があるからこそ、わざわざここにきて、このインタビューを読んでるわけだから。頑張れ!
文/永堀アツオ
取材・構成/ビッグ・バン・センチュリー