『スクール・オブ・ロック』
「観ると楽器が弾きたくなる映画」のオススメをどれか1本だけ選ぶとしたら、迷わずこの作品を挙げる。自身もロック・バンド、テネイシャスDの主要メンバーとしてマイペースに活動しているジャック・ブラックが、エリート小学校の教師になりすます主人公デューイを演じた本作は、公開から15年以上経った今もなお「音楽映画の金字塔」として語り継がれる名作だ。
売れないロックバンドのギタリスト、デューイはロックを心底愛する男。しかし、自分が演奏するギターソロだけに陶酔してしまうクズな性格のせいで、ライブハウスの客はもちろんバンドのメンバーにも疎まれている。その日暮らしで家賃の支払いに困っていた、そんな彼のもとに、ある日ひょんなことから私立小学校の臨時教師の仕事が舞い込んでくる。お金目当てで授業などマトモにするつもりは毛頭なかったが、厳格な校則のせいで無気力になっているクラスの生徒たちに、実は音楽の才能があることを見抜いた彼は、同僚の教師や生徒の保護者に内緒で「ロック」を教え込んでいくのだった。
『スクール・オブ・ロック』というタイトルの通り、デューイが生徒たちにロックの歴史や名フレーズ、楽器の演奏法などをイチから教えていくくだりがとにかく最高。クラシックギターやコントラバス、ピアノなど、“由緒正しい”楽器しか持ったことのない生徒たちにエレキギターやベース、シンセなどを「似たようなもんだ」と言ってあてがい、「とにかくGのコードだけ延々と鳴らし続ければいい」と夢中で教えるデューイの姿にも、自由にセッションすることの喜びを徐々に知っていく生徒の姿にも、思わず感動してしまう。中でもデューイが、「自分には何も特技がない」と思っていた一人の女の子から、「ゴスペル・シンガー」としてのポテンシャルを引き出すシーンは涙なしでは見られない。
ちなみに、子役たちの音楽コンサルタントを務めたのはジム・オルーク。ジムの的確な指導の甲斐あって、子供たちの楽器演奏はメキメキ上達したという。 見終わった後、「今すぐ楽器が弾きたい!」「バンドを組みたい!」と思うこと必至だ。
『スクール・オブ・ロック』 Blu-ray&DVD 発売中
Blu-ray:¥2,075(税込)
DVD(スペシャル・コレクターズ・エディション):¥1,572(税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
※ 2021 年 5月の情報です。
『シング・ストリート 未来へのうた』
楽器を始めたり、バンドを組んだりする男子たちのモチベーションとして、「女の子にモテたい」は今も不動の第一位ではなかろうか。1985年、アイルランドの首都ダブリンの南部にあるインナーシティ地区を舞台にした映画『シング・ストリート』も、そんな高校生男子を主人公にした甘酸っぱい青春音楽映画だ。
主人公コナーの家族は、長引く不況によって崩壊寸前。そんな状況から逃避するように、ロンドンのポップ・ミュージックにのめり込んでいた。転校先の学校ではさっそくいじめっ子に目をつけられるなど散々な日々を送っていたコナーだが、ある日の下校途中、高校の向かいにあるフラットの前でたたずむ一人の美女に気づく。自称「モデル」の彼女、ラフィーナにたちまち一目惚れした彼は、組んでもいないバンドのミュージック・ヴィデオに出演しないかと持ちかけ電話番号をゲット。慌ててメンバー集めに奔走し、高校名にかけて「シング・ストリート」と名付けた5人編成のバンドを結成するのだった。
マルチ・プレイヤーであるエイモンの自宅に楽器を持ち寄り、デュラン・デュランの名曲「リオ」をコピーするシーンが初々しくて最高だ。コナー以外のメンバーは楽器が弾けなくもないのだが、まだ「合わせる」という概念がないためアンサンブルはてんでバラバラ。それでも楽しそうに、そして真剣に演奏する姿に心打たれる。「女にモテたきゃ、他人の曲じゃなくてオリジナルの曲で勝負しろ」と、兄ブレンダンに発破をかけられたコナーがエイモンと曲を作るシーンも見どころの一つ。書きためていた自作の詩を、エイモンが弾くアコギの伴奏に合わせて即興で歌っていき、少しずつ曲が生まれていく。「こんなコーラスはどう?」とさらにアイデアを足すエイモン。2人の友情がどんどん深まっていく様子はスリリングかつエキサイティングだ。
ちなみにラフィーナ役のルーシー・ボイントンは本作で大きな注目を集め、『ボヘミアン・ラプソディ』ではラミ・マレック扮するフレディ・マーキュリーの親友メアリー・オースティン役を務めた。
『シング・ストリート 未来へのうた』
Blu-ray&DVD 発売中 Blu-ray:¥2,200(税込)
DVD:¥1,257(税込)
発売元:ギャガ
※2021 年 5月の情報です。
『はじまりのうた』
ジョン・カーニー監督が『シング・ストリート 未来へのうた』の前に制作した『はじまりのうた』は、アコースティック・ギターというシンプルな楽器が持つ無限の可能性を教えてくれる映画だ。
マルーン5のアダム・レヴィーン扮する恋人デイヴとともに、イギリスからニューヨークへ移住してきたシンガー・ソングライターのグレタ(キーラ・ナイトレイ)。2人で制作した楽曲が映画に採用され前途洋洋のはず……だったが、デイヴの浮気により突然の破局が訪れる。失意のまま友人のスティーヴとともにライブバーへ。そこで、無理やりステージに引っ張り出された彼女は、アコギの弾き語りを披露するハメに。居合わせた客のほとんどは無関心だったが、偶然居合わせた落ち目のプロデューサー、ダン(マーク・ラファロ)の目に留まり、「一緒にアルバムを作ろう」と持ちかけられるのだった。
グレタとスティーヴ、そしてダンそれぞれの目線でこのライブバーでの出来事を繰り返す物語前半がとにかく秀逸。誰も関心を払ってくれない中、一人惨めにアコギの弾き語りをしていたと思っていたグレタだったが、ダンはその演奏を聴きながら、頭の中でドラムやベース、ピアノ、コーラスなどを次々と鳴らして壮大なアレンジを組み立てていたのだ。誰一人として気付いていない、素晴らしい才能を目の前で発見したダンの喜びや興奮が、観ているこちらにも手に取るように伝わってくる。そして、アコギ一本さえあれば無限に曲が書けるということをも、このシーンは教えてくれるのだ。
アルバム制作のための資金もないグレタとダンは、スティーヴら友人ミュージシャンの協力のもと、ノートパソコン1台と簡易的な機材を携え、ニューヨークの街中でレコーディングを敢行する。今は大掛かりな防音施設や高価な録音機材がなくても、誰もがパソコンを使って気軽に音楽が作れる時代。低予算を逆手に取り、テクノロジーをうまく利用しながら音楽を作り出していくグレタたちのDIY精神を見習いたい。
『はじまりのうた BEGIN AGAIN』
Blu-ray&DVD 発売中 デジタル配信中 https://Movie.lnk.to/hajimariTW
Blu-ray:¥5,170(税込)
DVD:¥4,180(税込)
発売・販売元:ポニーキャニオン
※2021 年 5月の情報です。
『ロケットマン』
アルバムとシングルのセールスが3億円を超え、「史上最も売れたアーティスト」の5本の指に入ると言われているエルトン・ジョン。本作『ロケットマン』は、そんな彼の複雑な生い立ちや謎めいた私生活、屈指の名曲が生まれるまでのエピソードについて、現実と虚構の入り混じった「ミュージカル仕立て」のエンターテイメントとしてまとめ上げている。
厳格だがジャズ好きの父に認められようとピアノに没頭し、アーティストとしての才能に目覚める少年期のエピソードや、作詞家バニー・トービンとの運命的な出会いにより曲作りに勤しんでいく様子など、「ド派手な衣装を着たエンターテイナー」というパグリック・イメージが先行するエルトンの、意外な一面を垣間見られるのも本作の魅力の一つだ。
音楽プロデューサーを務めたのは、ジャイルズ・マーティン。言うまでもなくあのジョージ・マーティンの息子であり、近年のビートルズのリマスターやリミックス・プロジェクトを先頭に立って進めてきた人物である。今回エルトン本人から全権を委任された彼は、過去曲を解体〜再構築することによって、現在進行形のダイナミックなミュージカル・ソングへと生まれ変わらせている。
そんなジャイルズの技術と、主演を務めたタロン・エガートンの演技力&歌唱力が見事にかけ合わさったのが、歴史的な名曲「Your Song」の生まれるシーンだ。レオン・ラッセルにインスピレーションを受け、フォークとジャズを融合させたこの楽曲は、バニーとエルトンの母親、そして義理の父親とともに住むアパートのリビングで生まれた。ピアノをポロポロとつま弾きながら、最初は鼻歌交じりの断片だったメロディが、徐々に歌詞と融合しながらメロディを紡いでゆく。すると別の部屋にいたバーニーや母親たちが、なにやら途方もない名曲が生まれている気配に気づき、思わず手を止めエルトンの方を見やるという、そんな「静かな興奮」に包まれた様子を見事に再現。曲作りの楽しさ、ピアノを弾く楽しさまでをも観る者に伝えているのだ。
『ロケットマン』 Blu-ray&DVD 発売中
Blu-ray:¥2,075(税込)
DVD:¥1,572(税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
※ 2021 年 5月の情報です。
『イエスタデイ 』
「もしもビートルズの存在を、自分以外誰も知らない世界になってしまったら……?」という、非常にユニークかつ荒唐無稽な設定のラブコメディ『イエスタデイ』は、「初めてビートルズを聴いたときの感動」を、映画という「魔法」を使って擬似体験させてくれる、そのことだけでも一見の価値ある作品。監督は『トレイン・スポッティング』や『スラムドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイルが務め、脚本を『アバウト・タイム』や『ブリジット・ジョーンズの日記』を手掛けたリチャード・カーティスが担当した。
舞台はイギリスの小さな港町サフォーク。売れないシンガーソングライターのジャック・マリック(ヒメーシュ・パテル)は、幼なじみで親友のエリー・アップルトン(リリー・ジェームズ)の献身的なサポートに支えられながら、ほそぼそと音楽活動を続けていた。そんな時、原因不明の大停電が世界規模で起こり、彼は交通事故に。目覚めるとそこは、世界で最も有名なバンド、ビートルズが存在しない世界になっていた。
本作屈指の見どころは、交通事故より生還したジャックが友人たちの前で何気なくアコギを爪弾くシーン。まずは「指ならし」のつもりでビートルズの「イエスタデイ」を鼻歌まじりに歌い始めるのだが、それを聴いていたエリーをはじめ友人たちが、明らかにいつもとは違うリアクションを取り始めるのだ。このシーンがとにかく鳥肌もの。「イエスタデイ」って、こんなにいい曲だったっけ。それこそ音楽の教科書にも掲載されるほどの「古典」であり、嫌でも耳にしてきた曲を、これほどまで瑞々しい気持ちで耳にしたことは一度もなかった。「映画」という魔法にかかった観客は、エリーたちと一緒に「生まれて初めてビートルズを聴いた気持ち」にさせられてしまうのである。
すでに若い世代には忘れ去られかけている、「古き良きビートルズの楽曲たち」をもう一度まっさらな気持ちで楽しむための「仕掛け」が、他にも色々と散りばめられている。また、特別出演したエド・シーランとの「即興作曲バトル」も曲作りの楽しさを味合わせてくれるし、「She Loves You」や「In My Life」、「Eleanor Rigby」といった楽曲をアコギ1本でジャカジャカと弾き語るジャックの姿に、きっとあなたも本作を観終わったらすぐ楽器を触りたくなるはずだ。
『イエスタデイ』 Blu-ray&DVD 発売中
Blu-ray:¥2,075(税込)
DVD:¥1,572(税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
※ 2021 年 5月の情報です。
「練習がきつい!と感じたら」特集について
毎日コツコツと練習を重ねるのが、なんだかしんどくなるときってありますよね。そんなときは、克服した人の経験談やアドバイスから練習のヒントを受け取ってみては?プロの演奏家やミュージシャンも、意外と同じ壁にぶち当たっているかもしれませんよ。